初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
 祖国から遠く離れた地で、アレクサンドラは目覚めぬアントニウスに寄り添っていた。
 以前なら、アレクシスの姿で社交界の噂にはすべてチェックを入れ、ジャスティーヌの名誉を傷つけるようなものは全て打ち消し、そんな噂を流したものを全て返り討ちにするようにしていた。以前にも、バルザック侯爵家所縁の者がまことしやかに事実無根の噂を社交界に広めようとしていたのをアレクシスとして闇に葬り、代わりにフランツがアレクシスとの決闘の時に晒した無様な姿を噂にして流したこともあった。
 ジャスティーヌからの手紙は、ロベルトが手配してくれ、王宮からの特別便で公爵邸に届けられるようになっていた。

(・・・・・・・・フランツの奴、まだジャスティーヌにちょっかいを出しているのね・・・・・・・・)

 アレクサンドラは考えながら、自分がジャスティーヌの傍を離れたから、ジャスティーヌの身に災いが降りかかったのだと、アレクサンドラは自分を責めていた。
「私がおとなしく、フランツに嫁ぐことを承諾していれば、ジャスティーヌが侮辱されることはなかったんだわ」
 アレクサンドラは思わず声に出していった。
「お嬢様?」
 アレクサンドラの言葉に、ライラが心配げに声をかけた。
「また、バルザック侯爵家からの嫌がらせで、ジャスティーヌが侮辱されたの」
 アレクサンドラは言うと、読み終わった手紙をポケットにしまった。
「私が、フランツに嫁げば・・・・・・」
 口にしてみたものの、寒気がするだけで、アレクサンドラはフランツに嫁ぐことを具体的に考えることができなかった。
 寒気を感じたアレクサンドラは、固く目をつむって頭を大きく左右に振った。

☆☆☆

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