初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
 アントニウスの顔色が悪くなったような気がして、アレクサンドラは慌ててアントニウスの方に向き直った。
 今まで落ち着いていた呼吸も、少し粗いような気がした。
「ライラ・・・・・・」
 アレクサンドラはライラを呼ぶと、耳元で囁いた。
「ライラ、ほんの少しでいいの。ソフィアを連れて外に出ていてちょうだい」
 アレクサンドラの言葉に、ライラは慌てて頭を横に振った。
「そんなこと、奥様と旦那様に叱られてしまいます」
 ライラの言葉はもっともだった。
「お願い。アントニウス様は、手紙にアレクシスに会いたいと書いてきていたの。だから、声だけでもアレクシスの声を聴かせてあげたいの。でも、ソフィアに知られるのはまずいでしょう? お願いよ、ライラ」
 アレクサンドラの言葉に、ライラはしばらく悩んだものの、仕方なく頷いた。
「では、お嬢様、ソフィアさんにお願いして、キッチンまで行ってまいりますね」
 ライラは言うと、怪訝そうなソフィアに何事かを呟き、ソフィアは頷くとライラの先に立って部屋を出ていった。
 二人が離れるのを待って、アレクサンドラは大きく深呼吸した。
「アントニウス殿、何を悠長に寝ているのですか? あなたがそんな状態では、アレクサンドラはどうしていいかわからなくなってしまいますよ」
 久しぶりに出す、アレクシスの声は以前のように低くはなかったが、それでもアレクサンドラはしばらく話し続けた。

☆☆☆

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