初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
 ジャスティーヌの行儀見習いのスケジュールは順調に進み、ロベルトはリカルド三世と式の日程調整に入っていた。
「イルデランザからの報告では、終戦は近いと聞いている。さすがに、身内であるアラミスが戦地に赴いている状況では、めでたい式は上げにくい」
 リカルド三世の言葉に、ロベルトは頷いた。
「ロベルトからの連絡はありませんが、父上の所には何か知らせが?」
 ロベルトの問いに、リカルド三世が頷いた。
「マリー・ルイーズから、アントニウスは杖と車いすのいる生活から少し進歩し、なんとか杖だけの生活に戻りつつあるとの知らせがあった。だが、マリー・ルイーズにも、なぜアレクサンドラを帰国させたのかは分からないとの事だった」
 つかめないアントニウスの理解不能な行動に、マリー・ルイーズだけでなく、リカルド三世も、ロベルトも答えを見つけ出せずにいた。
「父上は、イルデランザとの和平のために、アントニウスとアレクサンドラの結婚をお考えですか?」
 ジャスティーヌかせら、どれほどアレクサンドラが傷ついているかを聞かされているロベルトとしては、以前のようにアントニウスとアレクサンドラの結婚に賛成することができなくなっていた。
「その事だが、ルドルフをホーエンバウム公爵としてしまった今、もし、アントニウスがアレクサンドラの事を傷つけるようなことがあれば、それこそ、国家間の問題になってしまう。アントニウスは大公位継承権を持った公爵家の嫡男。ホーエンバウム公爵家は、私の叔母の家、ルドルフに王位継承権は与えられないが、それでも、公爵家としての各付けは最高だ。そうなると、マリー・ルイーズがアラミスに嫁いだ時と同じか、それ以上にデリケートな問題になる」
 父の言葉に、ロベルトは言葉を飲み込んだ。
 ロベルトの目にも、アーチボルト伯爵が公爵に叙爵されることによりすべてがうまくいくように見えていたから、リカルド三世の言葉は意外だった。
「少なくとも、一方的に帰国させ、『白い結婚の事実はない』と公式に声明を出したことからも、こちらからアレクサンドラとの縁組を持ちかけることもできないし、イルデランザから申し入れてくることもできないだろう。そうなると、この話は流れたと考えるべきだろうな」
 国王としての父の言葉に、ロベルトは時に国王は厳しい決断を下さなくてはならないという事を思い知らされた。
 ロベルトの目にも、父はアレクサンドラをジャスティーヌと同じく自分の娘のように思っているし、その幸せを望んでいる。そして、『白い結婚』を承諾してまでイルデランザに赴いたアレクサンドラのアントニウスへの気持ちをわかっていながら、助け舟を出すことのできない辛さをロベルトは感じた。
「ここは、アントニウスの気持ちも大切だとわかっている。私にアレクサンドラへ結婚を申し込みたいと申し出た時のアントニウスは本気だった。だが、これ以上は・・・・・・。ロベルト、お前はしばらくアントニウスの事は忘れ、自分の事に集中しなさい」
 リカルド三世は言うと、ロベルトとの親子の時間を切り上げた。

☆☆☆

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