初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
アレクサンドラが自室で本を読んでいると、ノックの音がして続きの扉からジャスティーヌが姿を現した。
「おかえりなさい、ジャスティーヌ。行儀見習いご苦労様でした」
本を閉じながらアレクサンドラが言うと、ジャスティーヌは傍の椅子に腰を下ろした。
「もう、覚えることがたくさんで、頭がはじけちゃいそうよ」
「それは私も同じよ。伯爵令嬢から公爵令嬢になったから、覚えることが沢山あるわ」
アレクサンドラは言うと、ジャスティーヌの手を取った。
「でも、ジャスティーヌにはロベルトがついているでしょう」
「そうね。でも、ロベルト殿下は私がホーエンバウム公爵令嬢になったからって、休みの日も会いに来るし、お父様も大歓迎で家に招くから、アレクと過ごす時間が無くなってしまうんですもの」
ジャスティーヌは言うと、アレクサンドラの体を引き寄せた。
「カウチに移ろうか」
アレクサンドラの提案に、ジャスティーヌはすぐにカウチに移動し、アレクサンドラが隣に座ると、アレクサンドラに身を委ねた。
「これ、もし私がアレクシスの姿だったら、絶対にロベルトと決闘ものだよ」
アレクサンドラが茶化していっても、ジャスティーヌはアレクサンドラから離れようとはしなかった。
「どうしたの、ジャスティーヌ。なんだか、いつものジャスティーヌらしくないわよ」
アレクサンドラの問いに、ジャスティーヌは答えなかったので、アレクサンドラはしばらくジャスティーヌを抱きしめていた。
「ロベルトが、そろそろ式の日取りを決めようっていうの」
しばらくしてから、ぽつりとジャスティーヌが呟いた。
「おめでとうジャスティーヌ! いよいよ、王太子妃ね」
アレクサンドラは嬉しそうに言ったが、ジャスティーヌは自分の事なのに、嬉しそうではなかった。
「どうしたの? ロベルトに何かされたの?」
心配げに問いかけるアレクサンドラに、ジャスティーヌはぎゅっとアレクサンドラの事を抱きしめた。
「私、考えてなかったの。結婚したら、アレクと離れ離れになるんだって。もう、今迄みたいに、アレクと気安く接することができなくなるんだって、何にも考えてなかったの」
「大丈夫だよ。ジャスティーヌ、私だって一応、公爵令嬢だから、王族の末席になったわけで、ジャスティーヌと普通に話しても誰にも咎められないんだから」
「でも、もう、こうして一緒には暮らせなくなるのよ」
「それは・・・・・・」
「アレクがイルデランザに行って、私ひとりぼっちになってわかったの。私にはアレクが必要だって。だから、アレクが誰にも嫁がないなら、私も嫁ぎたくない。このまま死ぬまで一緒に居たい」
ジャスティーヌの様子から、アレクサンドラはこれが花嫁の憂鬱なのかとは思ったが、生まれた時からずっと一緒の双子だから、余計に離れていることが不自然に感じるのかもしれないとも思った。
「落ち着いて、ジャスティーヌ。ジャスティーヌは、ずっと恋焦がれていたロベルトとやっと幸せになれるのよ。幸せになって、ジャスティーヌのウェディングドレス姿、楽しみにしてるんだから」
アレクサンドラは言いながら、ジャスティーヌの背中を優しくなでた。
「ジャスティーヌ、ロベルトとの婚約を破棄するんなら、僕が連れて逃げてあげようか?」
ずっと封印していたアレクシスの声、アントニウスに聞かせたくて封印をといたから、アレクサンドラはジャスティーヌの耳元で囁いてみた。
「あのロベルトが地団駄踏む姿、僕も見てみたいかも・・・・・・」
「アレク!」
逆効果だったのか、ジャスティーヌは前よりしっかりとアレクサンドラに抱き着いてきた。
「僕のジャスティーヌ、最愛のジャスティーヌ。だから、ジャスティーヌには、絶対に幸せになって欲しいから・・・・・・。大切な人から逃げちゃだめだよ」
ゆっくりとジャスティーヌは顔を上げると、アレクサンドラの事を涙で濡れた瞳で見上げた。
「愛しているよ、ジャスティーヌ」
アレクサンドラは言うと、ジャスティーヌの額に口づけを落とした。
「アレク、愛してるわ」
「ジャスティーヌ、嬉しいけれど、僕がロベルトに殺されるから、ほどほどにしておいてね」
アレクサンドラは笑うとジャスティーヌの頭を撫でた。
「ねえ、アレク。どうしてあなたはそんなに強いの? 私だったら、耐えられないわ。すべてを投げうって尽くしたのに、その想いを踏みにじられたのに。どうして、そんなに普通にしていられるの?」
涙を浮かべるジャスティーヌに、アレクサンドラは笑って見せた。
「ジャスティーヌ、ジャスティーヌだって、婚約してからずっとろくに言葉も交わせず、ずっと遠くから見守っていたじゃない。それに比べたら、私のは、ほんの少しの時間だわ。ジャスティーヌは子供の頃からずっとよ。相手は王太子で、当時の私たちには手が届かない存在と言っても良いくらいだったもの。でも、ジャスティーヌは信じてたんでしょ、絶対にロベルトと心が通じ合えるって。ジャスティーヌの方がすごいわ、尊敬しちゃう」
ジャスティーヌはアレクサンドラの腕の中で泣き続けた。
先日、ジャスティーヌ経由でアントニウスの気持ちを知らさせたアレクサンドラだったが、それはアントニウスの本心ではなく、ロベルトとジャスティーヌの思いやりからくる優しい嘘だとアレクサンドラは思っていた。公爵令嬢として、そう気安く修道院にも入れないアレクサンドラを慰めるための優しい嘘だと。そして、ふたりにそんな嘘をつかせている自分が申し訳なかった。
「ねえジャスティーヌ、ジャスティーヌがロベルトと幸せになってくれることが、私にとっては一番幸せな事なのよ。だから、幸せになって・・・・・・」
優しい言葉をかけるアレクサンドラをジャスティーヌはしっかりと抱きしめて放さなかった。
「でも、アレクはどうなるの? アレクの幸せは・・・・・・」
泣きながら訪ねるジャスティーヌに、アレクサンドラは優しく頭を撫でた。
「私は、幸せよ。だって、アレクシスのままだったら、レディとしてだれかを愛することを知らずに、嘘が続かなくなったら、そのまま修道院に入っていたかもしれないのよ。それなのに、レディに戻っただけじゃなく、好きだと言ってくれる人がいて、愛する人に出会えた。それに、愛する人の大変な時に傍に居ることができた。それだけで十分幸せよ。あとは、ジャスティーヌのウェディングドレス姿を見て、ジャスティーヌが幸せになって、子供が生まれたら、アレクサンドラおばさんって呼ばれたいわ。だって、私が一番大切で、一番愛しているのは、ジャスティーヌ、あなたなんだから」
ジャスティーヌを抱きしめるアレクサンドラの腕に力が込められた。
「今の告白は、二人だけの秘密ね。バレたら、ロベルトに殺されちゃうから」
アレクサンドラは茶目っ気たっぷりに言った。
それからしばらく、泣き続けるジャスティーヌをアレクサンドラはしっかりと抱きしめ続けた。
☆☆☆
「おかえりなさい、ジャスティーヌ。行儀見習いご苦労様でした」
本を閉じながらアレクサンドラが言うと、ジャスティーヌは傍の椅子に腰を下ろした。
「もう、覚えることがたくさんで、頭がはじけちゃいそうよ」
「それは私も同じよ。伯爵令嬢から公爵令嬢になったから、覚えることが沢山あるわ」
アレクサンドラは言うと、ジャスティーヌの手を取った。
「でも、ジャスティーヌにはロベルトがついているでしょう」
「そうね。でも、ロベルト殿下は私がホーエンバウム公爵令嬢になったからって、休みの日も会いに来るし、お父様も大歓迎で家に招くから、アレクと過ごす時間が無くなってしまうんですもの」
ジャスティーヌは言うと、アレクサンドラの体を引き寄せた。
「カウチに移ろうか」
アレクサンドラの提案に、ジャスティーヌはすぐにカウチに移動し、アレクサンドラが隣に座ると、アレクサンドラに身を委ねた。
「これ、もし私がアレクシスの姿だったら、絶対にロベルトと決闘ものだよ」
アレクサンドラが茶化していっても、ジャスティーヌはアレクサンドラから離れようとはしなかった。
「どうしたの、ジャスティーヌ。なんだか、いつものジャスティーヌらしくないわよ」
アレクサンドラの問いに、ジャスティーヌは答えなかったので、アレクサンドラはしばらくジャスティーヌを抱きしめていた。
「ロベルトが、そろそろ式の日取りを決めようっていうの」
しばらくしてから、ぽつりとジャスティーヌが呟いた。
「おめでとうジャスティーヌ! いよいよ、王太子妃ね」
アレクサンドラは嬉しそうに言ったが、ジャスティーヌは自分の事なのに、嬉しそうではなかった。
「どうしたの? ロベルトに何かされたの?」
心配げに問いかけるアレクサンドラに、ジャスティーヌはぎゅっとアレクサンドラの事を抱きしめた。
「私、考えてなかったの。結婚したら、アレクと離れ離れになるんだって。もう、今迄みたいに、アレクと気安く接することができなくなるんだって、何にも考えてなかったの」
「大丈夫だよ。ジャスティーヌ、私だって一応、公爵令嬢だから、王族の末席になったわけで、ジャスティーヌと普通に話しても誰にも咎められないんだから」
「でも、もう、こうして一緒には暮らせなくなるのよ」
「それは・・・・・・」
「アレクがイルデランザに行って、私ひとりぼっちになってわかったの。私にはアレクが必要だって。だから、アレクが誰にも嫁がないなら、私も嫁ぎたくない。このまま死ぬまで一緒に居たい」
ジャスティーヌの様子から、アレクサンドラはこれが花嫁の憂鬱なのかとは思ったが、生まれた時からずっと一緒の双子だから、余計に離れていることが不自然に感じるのかもしれないとも思った。
「落ち着いて、ジャスティーヌ。ジャスティーヌは、ずっと恋焦がれていたロベルトとやっと幸せになれるのよ。幸せになって、ジャスティーヌのウェディングドレス姿、楽しみにしてるんだから」
アレクサンドラは言いながら、ジャスティーヌの背中を優しくなでた。
「ジャスティーヌ、ロベルトとの婚約を破棄するんなら、僕が連れて逃げてあげようか?」
ずっと封印していたアレクシスの声、アントニウスに聞かせたくて封印をといたから、アレクサンドラはジャスティーヌの耳元で囁いてみた。
「あのロベルトが地団駄踏む姿、僕も見てみたいかも・・・・・・」
「アレク!」
逆効果だったのか、ジャスティーヌは前よりしっかりとアレクサンドラに抱き着いてきた。
「僕のジャスティーヌ、最愛のジャスティーヌ。だから、ジャスティーヌには、絶対に幸せになって欲しいから・・・・・・。大切な人から逃げちゃだめだよ」
ゆっくりとジャスティーヌは顔を上げると、アレクサンドラの事を涙で濡れた瞳で見上げた。
「愛しているよ、ジャスティーヌ」
アレクサンドラは言うと、ジャスティーヌの額に口づけを落とした。
「アレク、愛してるわ」
「ジャスティーヌ、嬉しいけれど、僕がロベルトに殺されるから、ほどほどにしておいてね」
アレクサンドラは笑うとジャスティーヌの頭を撫でた。
「ねえ、アレク。どうしてあなたはそんなに強いの? 私だったら、耐えられないわ。すべてを投げうって尽くしたのに、その想いを踏みにじられたのに。どうして、そんなに普通にしていられるの?」
涙を浮かべるジャスティーヌに、アレクサンドラは笑って見せた。
「ジャスティーヌ、ジャスティーヌだって、婚約してからずっとろくに言葉も交わせず、ずっと遠くから見守っていたじゃない。それに比べたら、私のは、ほんの少しの時間だわ。ジャスティーヌは子供の頃からずっとよ。相手は王太子で、当時の私たちには手が届かない存在と言っても良いくらいだったもの。でも、ジャスティーヌは信じてたんでしょ、絶対にロベルトと心が通じ合えるって。ジャスティーヌの方がすごいわ、尊敬しちゃう」
ジャスティーヌはアレクサンドラの腕の中で泣き続けた。
先日、ジャスティーヌ経由でアントニウスの気持ちを知らさせたアレクサンドラだったが、それはアントニウスの本心ではなく、ロベルトとジャスティーヌの思いやりからくる優しい嘘だとアレクサンドラは思っていた。公爵令嬢として、そう気安く修道院にも入れないアレクサンドラを慰めるための優しい嘘だと。そして、ふたりにそんな嘘をつかせている自分が申し訳なかった。
「ねえジャスティーヌ、ジャスティーヌがロベルトと幸せになってくれることが、私にとっては一番幸せな事なのよ。だから、幸せになって・・・・・・」
優しい言葉をかけるアレクサンドラをジャスティーヌはしっかりと抱きしめて放さなかった。
「でも、アレクはどうなるの? アレクの幸せは・・・・・・」
泣きながら訪ねるジャスティーヌに、アレクサンドラは優しく頭を撫でた。
「私は、幸せよ。だって、アレクシスのままだったら、レディとしてだれかを愛することを知らずに、嘘が続かなくなったら、そのまま修道院に入っていたかもしれないのよ。それなのに、レディに戻っただけじゃなく、好きだと言ってくれる人がいて、愛する人に出会えた。それに、愛する人の大変な時に傍に居ることができた。それだけで十分幸せよ。あとは、ジャスティーヌのウェディングドレス姿を見て、ジャスティーヌが幸せになって、子供が生まれたら、アレクサンドラおばさんって呼ばれたいわ。だって、私が一番大切で、一番愛しているのは、ジャスティーヌ、あなたなんだから」
ジャスティーヌを抱きしめるアレクサンドラの腕に力が込められた。
「今の告白は、二人だけの秘密ね。バレたら、ロベルトに殺されちゃうから」
アレクサンドラは茶目っ気たっぷりに言った。
それからしばらく、泣き続けるジャスティーヌをアレクサンドラはしっかりと抱きしめ続けた。
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