初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
 来賓用の客室に戻ると、アントニウスはじっとユリウスの事を見つめた。
「いい加減にしてくれアントニウス、その視線からは大公に対する敬意も、伯父に対する敬意も感じないぞ」
 ユリウスは言うと、戸口から動かないアントニウスの方を向いた。
「伯父上、さっきのあれは、あれはどういうつもりですか?」
 ユリウスは決して手が早い男ではないが、妻以外の女性に手を出さない男でもない事を知っているアントニウスは、今にもアレクサンドラに口づけようとしていたユリウスに本気で怒りを抱いていた。
「一瞬、魔が差しただけだ」
「だから、それを言っているんです。アレクサンドラは・・・・・・」
「お前のものだとでもいうつもりか?」
 ユリウスの言葉にアントニウスは絶句した。
「いえ、アレクサンドラは誰のものでもありません」
「正しいな。・・・・・・安心しろ。お前のことはしっかりリカルド三世にくれてやるから、今晩はおとなしく寝ておけ」
 ユリウスは言うと、手ぶりでアントニウスを部屋から追い出した。

(・・・・・・・・それにしても、あの娘、姉と瓜二つなのに、なぜああも印象が違うのだろうか? まあ良いか。甥の妻に手を出すほど私も根性は腐っていない。それに、リカルド三世にアントニウスを同盟の礎としてエイゼンシュタインに贈るといえば、話はすぐにまとまるだろう・・・・・・・・)

 ユリウスは腕に抱いたアレクサンドラの事を思い出しながら、両国の和平に想いを馳せた。

☆☆☆

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