初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
 会談の間、ずっと部屋で待っていたアントニウスは、ユリウスが戻るなり結果を求めた。
「うまくは行っていない。アラミスのせいで、お前もあまり歓迎されていないようだ」
 ユリウスが言うと、アントニウスは椅子に腰を下ろし、頭を抱えた。
 この会談にすべてをかけ、会談を成功に導くためだと言われていたアントニウスは、晩餐会を待つ控えの間でも、晩餐会の後の夜会でも、アレクサンドラと言葉を交わさずにずっと我慢し続けていた。さすがに、目の前で伯父のユリウスがアレクサンドラに口づけしそうになった時は怒りが抑えきれず、伯父の肩を掴んで止めたが、それでも、それ以上アレクサンドラに近付くことはなかった。
「こんなことなら、夜会で話しかければよかった」
「いや、お前が話しかけようとすれば、すぐに邪魔が入っただろう」
「では、伯父上はアレクサンドラを諦めろというのですか!」
 怒りをぶつけてくるアントニウスに、ユリウスはため息をついた。
「ため息をつきたいのは、私の方です」
「そこまで言うのであれば、もう一度正式に結婚を申し込んで来ればいいではないか」
「そんなこと、今更・・・・・・」
「今更なんだ? 許されないと言うなら、奪ってしまえ。アラミスが私からマリー・ルイーズを奪ったように」
 ユリウスは何でもない事のようにサラリと言った。
「伯父上、そんなことをしたら、今度はエイゼンシュタインと戦争になりますよ」
「あくまでも相手が結婚を承諾しても、他の誰かが邪魔をするならばと言う意味だ。ただ、闇雲に誘拐して良いとは言っていない」
「つまり、もし、アレクサンドラが結婚を承諾してくれたなら、という事ですか?」
「もちろん、相手の気持ちあってのことだ」
「それならば・・・・・・」
 ビクトリアからの手紙にあったことが事実なら、あれから時間は立ったが、今もアレクサンドラが自分の事を想ってくれているならば、この戦いには勝ち目があるとアントニウスは思った。
「では、早速明日にでも、結婚を申し込みに参ります」
「よかろう。無理強いはなしだ。いいな?」
「はい。もちろんです」
 アントニウスは言うと、ユリウスの部屋を辞し、自分の部屋へと戻った。

☆☆☆

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