初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
その頃、国王の前に引っ立てられるようにして連れてこられたアーチボルト伯爵は、国王から予想だにしていなかった事を告げられていた。
「エイゼンシュタイン王国国王、リカルド三世の名の下に、アーチボルト伯爵家次女、アレクサンドラ・ロザリンド・アーチボルトを王太子ロベルトの婚約者として、正式に指名する」
アーチボルト伯爵は、驚きのあまり礼を失していることも忘れ『なぜそのようなことを!』と、問い返してしまった。
「理由は簡単なこと、国中のどの男の目にも触れたことのない深窓の令嬢であれば、婚約者も心に決めた相手も居るまい。歳も近く、王太子ロベルトの妻にふさわしいこと、この上ない」
言い切った陛下の表情は、バラ色で幸せ全開だった。
一方、アーチボルト伯爵はと言えば、格別の話、身に余る光栄の筈なのに、棺桶に片足を突っ込んだような表情を浮かべていた。
それもそのはず、アレクサンドラが従兄のアレクシスと名乗り社交界に出入りしていることを渋々とはいえ伯爵も認めてしまった時点で、アレクサンドラの行き着く先は修道院と、結婚どころか、女としての幸せを与えてやることを完全に諦めていた。
これが長女のジャスティーヌなら話は全く違う。
列強同盟六ヵ国の言語を全て理解する明晰な頭脳と、複雑で美しいレース編みの余りの美しさに王妃が涙を流されたという逸話のある、手芸の才能まで持ち合わせている。それなのに、くる縁談、くる縁談、アレクサンドラがアレクシスとしてぶち壊すため、妙齢の王子とは釣り合うが、今や社交界では行き遅れ呼ばわりされている始末だ。
そう、これがジャスティーヌとの結婚話なら、なんの問題もない。なのに、よりにもよって指名されたのはアレクサンドラだ。
余りのことに、アーチボルト伯爵は目の前が真っ暗になり、国王の御前で卒倒しそうになりながらも、必死に嫁には出せないという意思表示を次のような言葉で陛下に伝えた。
「アレクサンドラは、信仰心があつく、幼い頃より修道院入りを望んでおります。大変申し訳ございませんが、一度、本人の意志を確認させて戴きとうございます」
瀕死の状態でひねり出した言い訳に、居並ぶ重臣達が『たかが伯爵家の分際で、持ちかえるだと』と、睨みを効かせたが、現状が現状だけに、アーチボルト伯爵は必死に意識を保ちながら御前を下がり、脱兎のごとく王宮を後にした。
☆☆☆
「エイゼンシュタイン王国国王、リカルド三世の名の下に、アーチボルト伯爵家次女、アレクサンドラ・ロザリンド・アーチボルトを王太子ロベルトの婚約者として、正式に指名する」
アーチボルト伯爵は、驚きのあまり礼を失していることも忘れ『なぜそのようなことを!』と、問い返してしまった。
「理由は簡単なこと、国中のどの男の目にも触れたことのない深窓の令嬢であれば、婚約者も心に決めた相手も居るまい。歳も近く、王太子ロベルトの妻にふさわしいこと、この上ない」
言い切った陛下の表情は、バラ色で幸せ全開だった。
一方、アーチボルト伯爵はと言えば、格別の話、身に余る光栄の筈なのに、棺桶に片足を突っ込んだような表情を浮かべていた。
それもそのはず、アレクサンドラが従兄のアレクシスと名乗り社交界に出入りしていることを渋々とはいえ伯爵も認めてしまった時点で、アレクサンドラの行き着く先は修道院と、結婚どころか、女としての幸せを与えてやることを完全に諦めていた。
これが長女のジャスティーヌなら話は全く違う。
列強同盟六ヵ国の言語を全て理解する明晰な頭脳と、複雑で美しいレース編みの余りの美しさに王妃が涙を流されたという逸話のある、手芸の才能まで持ち合わせている。それなのに、くる縁談、くる縁談、アレクサンドラがアレクシスとしてぶち壊すため、妙齢の王子とは釣り合うが、今や社交界では行き遅れ呼ばわりされている始末だ。
そう、これがジャスティーヌとの結婚話なら、なんの問題もない。なのに、よりにもよって指名されたのはアレクサンドラだ。
余りのことに、アーチボルト伯爵は目の前が真っ暗になり、国王の御前で卒倒しそうになりながらも、必死に嫁には出せないという意思表示を次のような言葉で陛下に伝えた。
「アレクサンドラは、信仰心があつく、幼い頃より修道院入りを望んでおります。大変申し訳ございませんが、一度、本人の意志を確認させて戴きとうございます」
瀕死の状態でひねり出した言い訳に、居並ぶ重臣達が『たかが伯爵家の分際で、持ちかえるだと』と、睨みを効かせたが、現状が現状だけに、アーチボルト伯爵は必死に意識を保ちながら御前を下がり、脱兎のごとく王宮を後にした。
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