初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
グンと馬のスピードが上がり、再び二頭の馬が並ぶ。急な左カーブでアントニウスの馬が悲鳴を上げるようにスピードを落として踏ん張りながらカーブを曲がると、抱きしめられるような近距離にアレクンドラの肩がアントニウスに迫り、次の瞬間、再びアレクサンドラの馬が加速してカーブを抜けて行った。

(・・・・・・・・抱きしめたい・・・・・・・・)

 自分の中に湧き上がった想いに戸惑いながら、アントニウスも馬に鞭を当ててスピードを上げなおした。
 再びアレクサンドラに並ぼうとしていたアントニウスの目を不自然な動きをする鞍の留め金が引き、次の瞬間、驚きに前方から視線をずらしたアレクサンドラの顔が見えた。
 グラリとアレクサンドラの状態が傾き、その小さな体が宙へと浮かび上がっていくのをアントニウスは馬に飛び移るようにして必死に抱き寄せた。
 しかし、騎手を失くした馬のスピードは風のようで、アントニウスは腕の中にかろうじてアレクサンドラを包み込んだものの、ものすごいスピードで地面に叩きつけられて転がった。
 全身が軋むような衝撃と痛みの後、地面を転がる間もしっかりとアレクサンドラを抱いたままだったアントニウスは、ほぼ俯きの体制で回転が止まったところでアレクサンドラを抱き上げるようにして起き上がった。
 その男とは思えない柔らかく軽い体に、アントニウスは慌ててアレクサンドラを仰向けにすると、アレクサンドラの呼吸を確かめた。
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