初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
かすかな呼吸を止めないように、アントニウスはアレクサンドラのタイを外し、上着のボタンを外し、ベストのボタンも外した。それから、シャツブラウスのボタンに手をかけたアントニウスは、今まで気づかなかった二つの胸のふくらみに驚いて手を止めた。

(・・・・・・・・そんな、まさか・・・・・・・・)

 落馬しただけでも気が動転しているのに、男だと思っていたアレクシスの体が男ではないと察したアントニウスの頭はほぼパニック状態に陥った。

(・・・・・・・・そうだ、どんな時もアレクシスはきちっとした身なりで、どんに深酒しても上着を脱ぐこともブラウスの前をはだけることはなかった。それは、女だからだったのか? 俺が気になって仕方なく、近くに寄る度に麗しいと、思わず抱きしめたくなったのは、俺が異常だったんじゃなく、本能的にアレクシスが女だと感じていたからだったのか?・・・・・・・・)

 思考の渦に流されているアントニウスは、念のため、自分の勘違いでないかを確かめるために一度は止めた手を動かし、白いシルクのブラウスのボタンを外した。
  三つ目のボタンを外したアントニウスは、自分の勘違いでも、頭がおかしくなったのでもなく、アレクシスが男ではなく女性であるという事が間違いのない事実であると確認することが出来た。
 アントニオは慌ててボタンを元に戻すと、アレクサンドラの脈を取り、呼吸を確かめた。
 アレクサンドラの口元に耳を寄せると、そのサクランボの様な唇に口付けたくなったが、アントニオは必死に堪えた。
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