初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
ジャスティーヌが持っているのは、ロベルト王子に対するただの憧れだ。
本当のロベルト王子を知っているわけではなく、ただ幼い頃、初めて王宮で出会った時は王子だと知らず、どこかの貴族の息子だと思っていたから、仲良く遊び、いろいろな話をした。
しかし、相手が王子だと分かってからは、ジャスティーヌも自分の身分をわきまえて距離を置くようにしたし、王子という立場上、勉強に追われるロベルトは父親たちがブリッジに興じる奥庭や王妃の庭園に姿を見せることも稀になっていった。
そうしているうちに、ジャスティーヌは王宮に連れて行って貰えなくなり、社交界にデビューするまで十年近く、王子には会うこともなかった。
やっと社交界にデビューして再会した王子は、ジャスティーヌの記憶通りとても素敵で、いつも沢山の女性に囲まれていた。時には、他国の王女をエスコートして舞踏会に出席する事もあり、手の届かない存在だと、もうとっくにジャスティーヌは諦めていた。
それなのに、婚約者としてアレクサンドラが指名され、当の本人は、ジャスティーヌに代わりを頼んでそのまま結婚しろという。
しかし『そんなの、絶対に無理だ』と、ジャスティーヌは思った。絶対に、いつか自分はジャスティーヌであると白状してしまう。そうしたら、王室侮辱罪から始まる複数の罪状で、多分、家族全員が死罪、よくても国外追放だ。
そのことを考えると、おとなしくアレクサンドラの案に従う事が正しいような気もしてくる。しかし、ジャスティーヌの中で、なぜ選ばれたのが自分ではないのかと言う不満がおさまってくれない。思えば、伯爵家の一大事だというのに、ずいぶん自分勝手なことを言った気もするが、たぶん誰も気付いていないだろう。
ジャスティーヌは一人、大きなため息をついた。
どのような理由であれ国王陛下がアレクサンドラを指名した以上、それを覆すことは誰にも出来ない。例え、ロベルト王子であっても、王命を覆すことは出来ないかもしれない。
ジャスティーヌは、もう一度大きなため息をついた。
そろそろ執務室に戻らないと、久しぶりに怒りを爆発させた母のアリシアから猛攻撃を受けているであろう妹のことが、ジャスティーヌは心配になってきた。
執務室に戻ってみると、そこにアリシアの姿も、アレクサンドラの姿もなかった。
話を聞けば、この十数年分の怒りを爆発させたアリシアは、激しいめまいを訴え家令と侍女に支えられ自室に戻ったとのことだった。
また、アリシアの怒りの猛攻が去ったことをこれ幸いと、アレクサンドラも既に遁走した後だった。
ぐったりと疲れた様子の父を前に、ジャスティーヌは思わず、これ以上父を苦しめるくらいならば、アレクサンドラの案に従い、身代わり役を引き受けると父に行ってしまいそうだった。しかし、心の奥底でくすぶる王子への思慕がジャスティーヌの口を重くし、決断をうやむやにしたまま、自分も自室に下がることを選ばせた。
本当のロベルト王子を知っているわけではなく、ただ幼い頃、初めて王宮で出会った時は王子だと知らず、どこかの貴族の息子だと思っていたから、仲良く遊び、いろいろな話をした。
しかし、相手が王子だと分かってからは、ジャスティーヌも自分の身分をわきまえて距離を置くようにしたし、王子という立場上、勉強に追われるロベルトは父親たちがブリッジに興じる奥庭や王妃の庭園に姿を見せることも稀になっていった。
そうしているうちに、ジャスティーヌは王宮に連れて行って貰えなくなり、社交界にデビューするまで十年近く、王子には会うこともなかった。
やっと社交界にデビューして再会した王子は、ジャスティーヌの記憶通りとても素敵で、いつも沢山の女性に囲まれていた。時には、他国の王女をエスコートして舞踏会に出席する事もあり、手の届かない存在だと、もうとっくにジャスティーヌは諦めていた。
それなのに、婚約者としてアレクサンドラが指名され、当の本人は、ジャスティーヌに代わりを頼んでそのまま結婚しろという。
しかし『そんなの、絶対に無理だ』と、ジャスティーヌは思った。絶対に、いつか自分はジャスティーヌであると白状してしまう。そうしたら、王室侮辱罪から始まる複数の罪状で、多分、家族全員が死罪、よくても国外追放だ。
そのことを考えると、おとなしくアレクサンドラの案に従う事が正しいような気もしてくる。しかし、ジャスティーヌの中で、なぜ選ばれたのが自分ではないのかと言う不満がおさまってくれない。思えば、伯爵家の一大事だというのに、ずいぶん自分勝手なことを言った気もするが、たぶん誰も気付いていないだろう。
ジャスティーヌは一人、大きなため息をついた。
どのような理由であれ国王陛下がアレクサンドラを指名した以上、それを覆すことは誰にも出来ない。例え、ロベルト王子であっても、王命を覆すことは出来ないかもしれない。
ジャスティーヌは、もう一度大きなため息をついた。
そろそろ執務室に戻らないと、久しぶりに怒りを爆発させた母のアリシアから猛攻撃を受けているであろう妹のことが、ジャスティーヌは心配になってきた。
執務室に戻ってみると、そこにアリシアの姿も、アレクサンドラの姿もなかった。
話を聞けば、この十数年分の怒りを爆発させたアリシアは、激しいめまいを訴え家令と侍女に支えられ自室に戻ったとのことだった。
また、アリシアの怒りの猛攻が去ったことをこれ幸いと、アレクサンドラも既に遁走した後だった。
ぐったりと疲れた様子の父を前に、ジャスティーヌは思わず、これ以上父を苦しめるくらいならば、アレクサンドラの案に従い、身代わり役を引き受けると父に行ってしまいそうだった。しかし、心の奥底でくすぶる王子への思慕がジャスティーヌの口を重くし、決断をうやむやにしたまま、自分も自室に下がることを選ばせた。