初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
大至急と言われ、年老いた侍従長をどこかに置き去りにしたらしいロベルトが四阿に姿を現した。
「父上、大至急とのことでしたが、アントニウス、そんなところで何をしているんだ?」
いつもなら、父の隣に座っているはずのアントニウスが四阿の床に両膝をついている姿に、ロベルトは怪訝そうに言った。
「ロベルト、いまアントニウスから聞いたのだが、お前はルドルフの娘と昔から恋仲なのか?」
父王の言葉に、ロベルトはギョッとしてアントニウスを睨んだ。
「やはり、偽りか」
ロベルトの表情を違う意味で解釈した父王の言葉に、ロベルトが訂正をする羽目になった。
「間違いではありません。ただ、正確に言うと、長い話になるのです」
「では、話してみよ」
まったく譲歩する気配のない父に、ロベルトは仕方なく幼い頃、初めてジャスティーヌに出会い、将来を約束したこと。その後、ジャスティーヌに会う機会がなく、色々な女性と浮名をながしたが、やはりジャスティーヌに想いがあったこと。近付こうとするとアレクシスが邪魔で、せっかく近づいてもジャスティーヌはすぐに格上の貴族の娘たちの妨害に合い、身を引いてしまうから、自分との約束を忘れているのだとあきらめていたこと。父からのアレクサンドラを妃にという話に、なんとかジャスティーヌとの再会の機会を作るためにジャスティーヌも見合いに組み込んでくれるように直訴したこと。そして、先日、大叔母の屋敷でジャスティーヌと昔話をする機会を持ち、気持ちを確認したことを説明した。
「つまり、あのバカげた見合いなど、必要なかったというのか?」
そう言われてしまえばそうなのだが、あの見合いの話があったから、改めてジャスティーヌと邪魔の入らない会話のチャンスを得られたことも事実だった。
「いえ、父上のおかげで、ジャスティーヌを独り占めすることができるようになりました」
実際、ジャスティーヌの自分はモテないという誤解がとこから生まれて来るのかわからないが、リカルド三世から見ても、ジャスティーヌは引く手数多で、ルドルフがのらりくらりと交わしていなければ、少なくとも重臣の多くはジャスティーヌを嫁に迎えたいと長い事画策していた。
逆に言えば、それを知っているから、敢えて引く手数多のジャスティーヌではなく、社交界にデビューすらしていないアレクサンドラを指名したのだが、実はジャスティーヌがロベルトに好意を持っていたとは、リカルド三世は人の表情を読むことに長けているつもりだったが、ジャスティーヌの秘めたる想いにまで気づくことはできなかった。
「それであれば、直ちに見合いを終了させればよい」
リカルド三世の言葉に、再びアントニウスが叔父の足に縋り付いた。
「どうか、もう少しお時間をください」
いま見合いを終了され、アレクサンドラを社交界にデビューさせれば、ジャスティーヌを逃した男たちがアレクサンドラに殺到することは言わずと知れたことだった。
「父上、アントニウスの為に、少し時間をください」
見かねたロベルトが声をかけた。
「正直、アントニウスがこうして父上に話をしに来ていなければ、私もアントニウスがジャスティーヌを私から奪おうとしているのではと疑うところでしたが、こうしてアントニウス自ら、王太子である私の見合い相手に懸想していると父上に告白しに来たのですから、今更疑う必要もないでしょう」
ロベルトは言うと、アントニウスの手を取り立ち上がらせた。
「なぜ、ルドルフの娘と恋仲であると言わなかった?」
父の問いに、ロベルトはため息をついた。
「父上、王太子のエチケットの中に、王太子が父王に話をするのは、国王が決めた結婚相手に不満がある時だけです」
「まったく、あのバカげたエチケットめ!」
「父上、大至急とのことでしたが、アントニウス、そんなところで何をしているんだ?」
いつもなら、父の隣に座っているはずのアントニウスが四阿の床に両膝をついている姿に、ロベルトは怪訝そうに言った。
「ロベルト、いまアントニウスから聞いたのだが、お前はルドルフの娘と昔から恋仲なのか?」
父王の言葉に、ロベルトはギョッとしてアントニウスを睨んだ。
「やはり、偽りか」
ロベルトの表情を違う意味で解釈した父王の言葉に、ロベルトが訂正をする羽目になった。
「間違いではありません。ただ、正確に言うと、長い話になるのです」
「では、話してみよ」
まったく譲歩する気配のない父に、ロベルトは仕方なく幼い頃、初めてジャスティーヌに出会い、将来を約束したこと。その後、ジャスティーヌに会う機会がなく、色々な女性と浮名をながしたが、やはりジャスティーヌに想いがあったこと。近付こうとするとアレクシスが邪魔で、せっかく近づいてもジャスティーヌはすぐに格上の貴族の娘たちの妨害に合い、身を引いてしまうから、自分との約束を忘れているのだとあきらめていたこと。父からのアレクサンドラを妃にという話に、なんとかジャスティーヌとの再会の機会を作るためにジャスティーヌも見合いに組み込んでくれるように直訴したこと。そして、先日、大叔母の屋敷でジャスティーヌと昔話をする機会を持ち、気持ちを確認したことを説明した。
「つまり、あのバカげた見合いなど、必要なかったというのか?」
そう言われてしまえばそうなのだが、あの見合いの話があったから、改めてジャスティーヌと邪魔の入らない会話のチャンスを得られたことも事実だった。
「いえ、父上のおかげで、ジャスティーヌを独り占めすることができるようになりました」
実際、ジャスティーヌの自分はモテないという誤解がとこから生まれて来るのかわからないが、リカルド三世から見ても、ジャスティーヌは引く手数多で、ルドルフがのらりくらりと交わしていなければ、少なくとも重臣の多くはジャスティーヌを嫁に迎えたいと長い事画策していた。
逆に言えば、それを知っているから、敢えて引く手数多のジャスティーヌではなく、社交界にデビューすらしていないアレクサンドラを指名したのだが、実はジャスティーヌがロベルトに好意を持っていたとは、リカルド三世は人の表情を読むことに長けているつもりだったが、ジャスティーヌの秘めたる想いにまで気づくことはできなかった。
「それであれば、直ちに見合いを終了させればよい」
リカルド三世の言葉に、再びアントニウスが叔父の足に縋り付いた。
「どうか、もう少しお時間をください」
いま見合いを終了され、アレクサンドラを社交界にデビューさせれば、ジャスティーヌを逃した男たちがアレクサンドラに殺到することは言わずと知れたことだった。
「父上、アントニウスの為に、少し時間をください」
見かねたロベルトが声をかけた。
「正直、アントニウスがこうして父上に話をしに来ていなければ、私もアントニウスがジャスティーヌを私から奪おうとしているのではと疑うところでしたが、こうしてアントニウス自ら、王太子である私の見合い相手に懸想していると父上に告白しに来たのですから、今更疑う必要もないでしょう」
ロベルトは言うと、アントニウスの手を取り立ち上がらせた。
「なぜ、ルドルフの娘と恋仲であると言わなかった?」
父の問いに、ロベルトはため息をついた。
「父上、王太子のエチケットの中に、王太子が父王に話をするのは、国王が決めた結婚相手に不満がある時だけです」
「まったく、あのバカげたエチケットめ!」