初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
「ですが、ここは国王のプライベートガーデン、私もエチケットに従わない行動が許されますね。それであれば、私は、もう少し誰にも邪魔されずにジャスティーヌとの時間を過ごしたいと思います。つまり、私がジャスティーヌと過ごしている間、私の身代わりがアレクサンドラと過ごすというのはいかがでしょうか?」
 ロベルトの提案に、アントニウスが驚いた。
「正直、私はアレクサンドラ嬢と過ごす時間は退屈でたまりません。アントニウスがアレクサンドラ嬢のどこにそこまで惚れ込んだのかはわかりませんが、アントニウス自身、アレクサンドラ嬢に気に入られているわけでもないようですし、ここは甥の為に一肌脱いでも良いのではないですか?」
 しばらく考え込んでから、リカルド三世はロベルトの提案に承諾した。
「だが、アントニウスがルドルフの娘に近づくのは、私がルドルフに話を通してからだ。良いな? あれは、あれで頭の固い父親だから、誤解があってはいけない」
「かしこまりました」
「それから、ロベルト。ジャスティーヌはお前の妻になることを承諾しているのだな?」
「はい。もちろんです」
「よかろう。ならば、私もお前たち二人の為に一肌脱ごう」
 リカルド三世は笑顔を浮かべると、アントニウスにその父親の姿を見た。皇嗣と婚約する予定でイルデランザを訪ねた従妹のマリー・ルイーズに一目ぼれし、マリー・ルイーズを追ってエイゼンシュタインまで訪れ、時の国王に直訴してマリー・ルイーズとの結婚の許可を貰おうとしたあの情熱的な男の血をこの息子も引いているのだと、初めて気付いた。
「私はルドルフと話をするから、お前たちは下がりなさい」
「では、私は東宮殿で執務に戻ります。アントニウス、そこまで一緒に行こう」
「叔父上、いえ、陛下、この度のご恩情に感謝いたします」
 アントニウスは臣下の礼をとると、ロベルトに続いて国王のプライベートガーデンを後にした。


「まったく、君のやることには驚かさせられるよ」
 東宮殿への道すがら、ロベルトは言った。
「仕方ないだろう。君に疑われたままでは、あの方の目に留まるのも難しいのだから」
「アレクシスが君のキューピッドを引き受けてくれているのではないのか?」
「それは、でも、他人に恋文を届けてもらうのは私の性に合わない。やはり、愛の言葉は自分の口から紡いでこそ意味がある」
 いったい、どれほど多くの女性を泣かせてきたのだろうかと、ロベルトは自分のことを棚に上げて思った。
「父上にまで話を通したのだ、君のアーチボルト伯爵家への接近禁止は解くことにするよ」
「いいのか?」
「ただし、ジャスティーヌと話すのは必要最低限にすること」
「ジャスティーヌ嬢は素晴らしいが、私はアレクサンドラ嬢が気に入っているから、心配はいらない。第一、これで私がジャスティーヌ嬢を口説いた足りしたら、両国が戦争になるだろう」
「よくわかっているな。それならいい」
 ロベルトは安心したように言うと、車付けへ向かう渡り廊下の手前で立ち止まった。
「では、次の舞踏会では計画通りに」
「わかっている。今となっては、嫁の押し売りは困るからな。父上にまで話すとは・・・・・・」
 ロベルトは言いながら、片手をあげて別れの意を表しながら東宮殿の方へと歩いて行った。
 ロベルトを見送ったアントニウスは、渡り廊下を通り、車つけで屋敷の馬車を呼んでもらい家路についた。

☆☆☆


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