銀光のbreath 【番外編 追加完了】
 ヤマトを送り出して家事を済ませると、今日は午後からちはるをチャイルドシートに寝かせ、自分の車で出かけた。

 通り沿いのお店やレストランのデコレーションは、サンタクロースだったり、おせちだったり。和洋折衷の彩どりだ、どこも。
 買い物だったら鈴奈さんも誘ってくとこだけど、行き先はメモリアルパーク。・・・今日はどうしても由弦と二人になりたかった。

 朝から風も緩くて、穏やかな冬晴れだった。
 駐車場からスリングでちはるを抱っこして、花と水桶を両手に歩く。
 見渡してもお墓参りの人も閑散としてて、流れる空気は静寂。繁る緑も薄いから、余計にそう感じるのかも知れない。 
 
 前にちはるを抱え四苦八苦しながら花や水を入れ替えると、やっとのことでお線香をあげ、真下家って刻まれた桜御影石の墓標を見つめる。

 
 ・・・明日は12月25日だよ、由弦。


 浅い蒼の空に向かってたなびく紫煙。


 あたし達の一番、大事な日。


 あたしが『世界一シアワセな奥さん』になった日。


 由弦が世界一シアワセそうだった日。


 これからも。由弦を愛し続けることを誓う日。
 
 
 スリングの中で小さく身じろぐ、ちはる。
 あたしは零れ落ちる涙を指で何度も拭う。


「・・・由弦も約束してよ・・・?」 

 
 カタチが無くなっても。姿が見えなくなっても。

 いつでも傍にいて、ちはるを見守り続けて。

 それで時々でいいから声を聴かせて。

 瑠衣って呼んで。

 イジワルしないで教えて。・・・俺はここにいるって。


「じゃないと・・・さびしくて死んじゃうからね・・・っ、ウサギみたいに」  
 
 鼻をすすり上げ、墓石に向かって拗ねて見せる。


 ・・・しょうがねぇな。
 胸の中の由弦がクスリと笑う。

 そんぐらい甘やかしてよ。
 頬を膨らますと。

 淡い笑みが流れて。・・・消えた。
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