銀光のbreath 【番外編 追加完了】
 目的地は高速使って3時間ほどの、山と海に囲まれた温泉郷。
 鈴奈さんが予約してくれたのは、有名な文豪も逗留したことがあるらしい大きな旅館で。露天風呂付き、夕食も部屋っていう至れり尽くせり。
 何回かしか見たことないけど、由弦の背中には、青だったか黒の羽を広げた蝶の紋様が彫られてるから。大浴場には入れないのを気遣ってくれたんだと思う。

 サービスエリアで休憩を挟みながらお昼過ぎには高速を下り、獲れたての海の幸が人気の食事処でランチの海鮮丼に舌鼓を打った。
 チェックインまではまだまだ余裕があったし、無料配布の観光マップを手に入れて、鈴奈さんの安産祈願に、ご神木が奉られてるっていう神社に立ち寄ることにする。


 天辺が見通せないくらい背の高い杉の木がそびえ立ち、参拝客なのか観光客なのか、長方形の石が整然と敷かれた参道にはぱらぱらと人影があった。
 インナーにシャツを羽織ってライダースの革ジャン、下はビンテージジーンズにマウンテンブーツって普通の恰好してると、由弦は全然フツーに見える。
 髪も、いつもはワックスでけっこうガッチリ固めてるけど、私服の時はちょっとサイドを流すくらいだし。
 ・・・・・・スーツでも、そうじゃなくても。体付きのバランス良いしサマになるんだよねぇ、こいつって。 

「瑠衣」

 周囲の景色を見渡しながらで、ちょっと足が遅くなったのを疲れたと思ったのか、先を歩ってた由弦が振り返ってこっちに手を差し出す。
 繋いでやるってコトらしい、どうやら。

 別にね。手ぇ繋ぐのだって初めてじゃないのよ? 昔もどっかに遊びに行って『つかれたー由弦、引っ張ってー!』みたいなのは、多々あったし。なんだけど!
 いちいち心臓が小っちゃく跳ねて、由弦を意識しちゃうとか。・・・なんかもう、あたし自分が終わってる気がする。こんな今更『恋』してるみたいのって。
 複雑なのは、あたし一人。・・・難しく考えちゃってんのもあたし一人。

「どうした?」

 訝しそうに視線を傾げる由弦に、「何でもない」って息を吐き。
 いつの間にかずい分と男っぽくなっちゃってさ。
 ・・・なんて、ちょっと胸の中で毒づきながら。手を伸ばして、あたしより大きいその掌をぎゅっと握り返したのだった。

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