銀光のbreath 【番外編 追加完了】
 神社の後は、この辺りの名産品や工芸品のお店が集まった通りを散策してみたり。
 美術館的な観光スポットもチラホラあるんだけど、由弦はそういうのに全く興味ないの知ってるから外した。

 高校の修学旅行で萩と津和野に行った時も、旧跡巡りなんかつまんねーって。あたしを巻き込んでエスケープしたから、担任にどんだけ説教食らったか。当人はどこ吹く風で、『もっと将来、役に立つモン見せろ』とか偉そうに言ってたっけなぁ・・・。

 海沿いは明日帰るすがらに走ることに決めて。3時を回って陽も傾きかけてきたし、今日の宿泊先『燈水屋旅館』(ひすいや・りょかん)に向かう。

 山の中腹にあって緑に囲まれた、風情のある温泉郷の宿。
 本館は戦前の建物で今は使ってないらしく、新館も、和の趣がふんだんの落ち着いた造りで、京都のお寺にでも来たみたいな見事な庭園にも癒されそうだった。

 7時のお夕食まで時間もある。まあテレビでも観ながらのんびりするのも、悪くないか。と思ってたら。

「瑠衣、風呂入るぞ」

 全くなんてコトもないように由弦が言った。

「・・・・・・・・・・・・むり」

 仲居さんが淹れてくれたお茶の湯飲みを持ったまま。思わず視線が固まり、ロボットみたいにぎこちなく首を横に振る。

「何が無理?」

 座卓に頬杖をつき、向かいの座椅子に胡坐をかいてる由弦は、真っ直ぐにあたしを見据えた。

「・・・あのな瑠衣。いつまで逃げても意味ねぇだろ」

 そ。・・・んなのは、分かってるよ。分かってるけど! 
 初めてで、どーしていいか全然わかんないし、なんか失敗して由弦に幻滅されたらどうしようとか、いっぱいいっぱいなんだってば・・・!
 居たたまれずに目を逸らし、膝の上あたりでサーキュラースカートをきゅっと握り締める。

「心配すんな。・・・お前が思ってるほど怖くねぇから。信じろドアホ」

 口は悪いのに、ひどく優しく笑ってくれて。
 泣きそうに恥ずかしくなったけど。

「・・・・・・・・・うん」

 あたしは心臓をバクバクさせながら、消え入りそうに小さく、そう返事をしてみせた。
 そりゃあもう。清水の舞台から飛び降りる覚悟で。
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