銀光のbreath 【番外編 追加完了】
「・・・・・・憶えてますよ、瑠衣子ちゃんのことは」

 湯飲み茶碗に視線を落として答えてくれるおばさん。感情の見えない表情は少しも変えずに。

「・・・征一郎や由弦が誰と結婚しようが構わないと、主人から言われてるの。だから私たちに義理を感じてもらう必要もないし、もうここにわざわざ来る必要もないって、分かってくれるかしら」

 つまり。“親”とは思わないでくれって。そういうコト。
 ・・・・・・まあ。至極真っ当なリアクションかなって思った。口汚く罵られるぐらいは覚悟してたし。

「・・・12月25日に入籍するので、今日はそれをお伝えしたかっただけなんです」

 出来るだけ自然に。口許を緩め穏やかにあたしは言った。

「あたし達の結婚を許していただけますか」

 一切関わりを持ちたくないって言う以上、この問いはおばさんにとって何の意味もない。分かってる。それでも筋を通したいだけ。
 由弦を生んで育ててくれた人達にきちんと。“独り立ち”って、そこから始まるんだと思うからあたしは。

「許すも赦さないも好きにしてちょうだい。・・・どうせ反対したって聴きやしないでしょう、あなた達は」

 おばさんは失望と諦めを露わに深い溜息を吐いて。
 理解(わか)りあえるはずが無いでしょう。・・・そう“壁”越しに。
 
 刹那。由弦の気配が変わったのを、あたしは反射的に腕を伸ばし、座卓の下で由弦の手をきゅっと握った。

「・・・そうですね。誰にどう思われても、あたしには由弦だけです。由弦を幸せに出来るのもあたしだけなので」

 視線は前に向けたまま、変わらない口調で続ける。 

「・・・由弦は。あたしには勿体ないくらい好い男です。ちょっと甘えたですけど、芯がしっかりしてて部下(した)からも慕われてます。料理もあたしより上手いですし、子供が生まれたら、周りが羨むくらいのイクメンになります。あたしは自分が世界一シアワセな嫁になる自信があるんです」

 由弦を生んでここまで育ててくれたお義母さんなら、分かってくれると思います、・・・と淡く笑みながら最後に付け加えた。 
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