銀光のbreath 【番外編 追加完了】
 誓いのキスはいわば儀式なワケで。こういう場合、一瞬チュッとやって外野に冷やかされて終わり。的な流れだろうって想像してた。

 由弦が真っ直ぐ向き直って、こっちを静かに見下ろしてる。シャッターチャンスを狙ってるカメラや、スマホが構えられてるのも目の端っこに映って。
 でも黙ってあたしを見つめたまま由弦は動かなかった。その眼差しがあんまり何かを堪えてるみたいに見えたから。ブーケを持ってない片手が思わず伸びて、由弦の頬をなぞった。
 あたしの指を武骨な指がきゅっと握って「・・・瑠衣」って呼ばれる。
 
 ああ泣きそう。・・・由弦が。
 それを見て鼻の奥につんと来る。

「・・・・・・お前が好きだ」
 
 あたしに伝えたい言葉を探して・・・探して。辿り着いたみたいに。
 今まで数えきれないくらい聞いたはずの、でも。今のが一番、心臓を鷲掴みにされて苦しかった気がする。
 なんか。・・・魂ごと渡されたみたいな。
 
「ずっと瑠衣だけだ」

 本当にずっと前から。あんたはあたししか見てなくて。
 ずっと。
 あたしは洋秋を吹っ切れずに。素直にあんたの胸には飛び込めなくて。
 あたしを誰より大事に想っててくれる男を。これでもかってくらい待たせてた。

 ありがとうって以外、言葉が見つからないよ・・・由弦。 

 洋秋と鈴奈さんが結婚するって決めた時。あたしを逃がさないで、ちゃんと捕まえてくれて。ありがとう。
 待たないでくれてありがとう。
 キッカケを欲しがってたのは、ほんとはあたしだった。
 洋秋を完璧に諦められる理由さえあれば。
 潔く由弦のトコに行けるのにって。 


 洋秋の大っきな包容力と男らしさに惹かれてた。
 望みが無いって分かってても、従兄妹って特別な絆で愛されてるのが嬉しくてしょうがなかった。 

 でもね。いつからだろ。
 俺にしとけって由弦に言われる度、心臓がうるさい音を立てるようになってた。そんな自分は、流されてるみたいで弱いみたいで。
 バカみたいに意地張って『失恋したって洋秋大好き宣言』してたね。
 
 たぶん由弦に甘えてた。
 あたしを好きならどうにかしてって。
 あたしの苦しいキモチ解放してよって。
 強引でも由弦が否応なしに、あたしを自分のモノにしちゃえばいいって。
 そしたらぜんぶ由弦のせいに出来るって。
 あたしが挫けたワケじゃないって。

 自分勝手にもホドがあったよね。
 
「・・・・・・ごめんね、ずっと。・・・待たせっぱなしのひどい女で・・・」
  
 目頭が熱くなって。ようやくそれだけを言える。

「屁でもねぇよバーカ」
 
 由弦が淡く笑んだ気配がした。でも見えなかった。視界がぼやけて。

 云いたかったコトとか、溢れるけど言葉になってかないキモチが全部。
 涙になって零れ落ちてく。

「・・・泣くな、ドアホ。俺が今どんだけ幸せかってことだけ憶えとけ」
 
 手を握られたまま由弦に引き寄せられて、自分の唇に温度を感じた。
 一瞬どころじゃなく。ここどこだっけって忘れるくらい深いキスをもらって。
 
 最後に抱き締められ、拍手と『おめでとう』の歓声に包まれながら。
 幸せで嬉しくて。
 今までの『ゴメン』と『ありがとう』を洗い流すみたいに。
 ・・・由弦の胸でしばらく泣いた。
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