銀光のbreath 【番外編 追加完了】
一晩中待って。



由弦に会えたのは。・・・次の日の夕方だった。


 みんないた。
 薄暗い部屋。
 お父さんとお母さんが泣きながら、あたしを抱き締めた。
 洋秋が『・・・すまない』って、項垂れたまま声を震わせた。
 鈴奈さんが寄り添いながら泣き崩れた。
 征一郎さんはただじっと、由弦を見つめてた。



 眠ってるみたいに見えた。
 男前の顔には傷ひとつなく。
 あたしは手を伸ばして由弦の髪を撫で。頬を撫でた。
 こうしてあげれば目を覚ます気がして。
 あたしの声なら目を覚ますって。
 
 
「・・・・・・由弦・・・起きて。・・・ねぇ、起きてよ・・・?」

 閉じた瞼が開いて。
 あたしを愛おしそうに見返してはくれない。

「・・・なんでこんなとこで寝てるのよ・・・? なんで・・・帰ってこないの・・・?」

 唇が動いて。
 『泣くな』って。澄まして笑ってもくれない。

「だって・・・帰ってくるって・・・言ったよ・・・? ウソだよねぇ・・・? あたしとちはるを置いてくわけないよねぇ? ・・・あたしを一人にするわけないよねぇ・・・?」 
 
 あたし一筋の男が、あたししか見てない男が。
 こんなにあたしを泣かせたまま。
 頭を撫でても抱きしめてもくれない。

 うそだよ。 
 ここに居るのに。由弦のカラダはちゃんとここに在るのに。
 抜け殻みたいに由弦はもういない。
 いない。
 ・・・いない。
 どこにもいない。

 
「・・・やだ。帰ってきて・・・。・・・いかないでよ・・・あたしを一人にしないで・・・。由弦がいなかったら・・・これからどうすればいいの? ちはるは・・・? ねぇ・・・この子になんて言えばいいのよ・・・?」  


 生まれてきたら、死ぬほど可愛がるんじゃなかったの?

 一番よろこんでたの由弦じゃなかったの?

 オムツ替えるのもお風呂入れるのも、ぜんぶ自分がやるって。

 俺に任せろって由弦が言ったんだよ?

 
「・・・由弦・・・むりだよ、あたし一人じゃ・・・。なんにもできないよ・・・由弦がいなきゃ。生きてけないよ、ちはると二人っきりじゃ・・・。置いてかないでよ・・・、あたしを置いてかないで。・・・ねぇ由弦、おねがいだから・・・っっ」


 息をしてない冷たい体に取りすがって。声を上げて泣き叫んでも。

 『瑠衣』って呼んでくれない。

 呼んでくれない、くれない、くれない。
 
 心臓が、体中が、千切れそうに苦しくてもう。

 もう。気が狂いそうで、死にたかった。

 死なせてほしかった。
 
 由弦がいないなら。


 由弦を返して。
 あたしの由弦を返して。
 帰ってこないなら死なせてよ・・・っっ。
 いっしょに死なせて。

 
 
「由弦、・・・由弦、ユヅル・・・ッッ」
 
 
 声もナミダも枯れるまで。由弦を呼び続けた。

  


 壊れたかった。
 二度と動かない、愛しい男の亡骸を抱いて。このまま。 






 逝きたかった。由弦のところに。
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