月夜の砂漠に紅葉ひとひら~出会ったのは砂漠の国の王子様~
なんとか乗り込んだバスでも、私の隣には光清が陣取る。

また女子社員達の歯軋りが聞こえてきそうだ。

「全員いるわね〜〜。出発しま〜す。」

神崎部長の号令で、バスは動き出す。

「これからどこへ行くんだっけ?」

「清水寺だよ。」

優しく教えてくれた光清が隣で、少しほっとする。


バスは京都市内を通過。

「今回は眠いって言わないんだね、紅葉。」

「ははは!そうだね。あんだけ寝ればね。」

笑って誤魔化したけれど、本当はボーッとしてたまらない。

でも新幹線の時みたいに、砂漠へ行けない。

思い浮かぶのは、ジャラールさんの笑顔。

会いたいのに、会えない。

別に好きとか言わないし、好きになって欲しいとか思ってないし。


ただ、会いたい。


「紅葉、なんだか寂しそうな顔してる。」

こう言う時、光清はすぐ気付く。

「そんな事ないよ。」

「そう?悩み事なら、いつでも聞くよ。」

「ありがとう、光清。」

私は寂しさを隠して、精一杯笑った。
< 76 / 300 >

この作品をシェア

pagetop