月夜の砂漠に紅葉ひとひら~出会ったのは砂漠の国の王子様~
突然の事に、息が止まる。

「な……にを、言って……るの?ジャラールさんは……本に、出てくる……」

「それだけじゃあ、ないよね。」


怖い。

端正な顔立ちの人の、無表情な顔って、何を考えているのか分からない。


「どうして、そんな事………」

「最初は俺も、夢の中のお話だと思ったよ。でも紅葉。音羽の滝で倒れた時、確かに『ジャラールさん』って、言ったよね。」

「私が?」

「それに新幹線で紅葉がうなされている時、この本、勝手にページを捲っていた。」

私は、両手をぎゅっと握った。


「なんか変だよ!本の中の台詞を紅葉、夢の中で呟いているし!」

光清は、自分のバッグから、あの本を取り出した。

「こんな本があるから、おかしくなるんだ‼」

光清はその本を持って、窓に向かって行った。

「何をするの?」

「こんな本、捨ててやる‼」

光清が窓を開けた。

「止めて‼」

私は光清の手から、その本を奪い返した。
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