桜の花が咲くまでは
気づいたら、カフェを出て、すぐ近くにある予備校の前に立っていた。
校舎の灯りは消えて真っ暗だ。
もちろんここに大地はいない。
ここは東京にある第一校舎で、大地と美陽が通うのは同じ予備校の、九州にある第三校舎。
だけど、ほんの少しでも大地を感じたくて、いつの間にかここに来ていた。

もちろんこんな場所で大地を感じられるわけもなく、だけど立ち去ることも出来ずにじっと予備校の門を見つめていた。

不意にドアが開いて一人の男性が出てきた。
うわ、人いたんだ。慌てて踵を返して歩き出す。

「あ、待って。忘れ物?」

話しかけられて焦る。けど、無視したらそれこそ不審者だよね!?

「い、いえ!違います!」

とりあえず振り返ってそう言う。
もういいかな、けど、生徒のストーカーとか思われても…!
どうしよう、と前方と男性を交互に見て挙動不審になってしまう。

ドアに鍵を掛け終えた男性がクスッと笑ながら近づいてくる。
先生かな?綺麗な人。
大きな鞄を提げている。今から帰るところだったみたいだ。

男性の茶色い髪の毛が、夜風にふわりと揺れる。

「あ、うちの子やないんや。茶髪やもん」

「はい、違います」

正面に来て覗きこむ目が優しい。焦りがすっと薄れていく。

「ほんなら、友達に会いに来た?それやったら10時までに来な」

「いえ、いないんです。ここには」

「ここには?」

不思議そうに首をかしげられる。

「えっ、と…」

説明しようとして言葉につまる。
改めて考えると自分の行動が謎過ぎる。
ここにいない人に会いに来たなんて、やっぱり不審者だと思われる!
< 4 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop