替え玉の王女と天界の王子は密やかに恋をする




「サキ…今夜は月が明るいし…ちょっと散歩して行かないか?」

「え?はい…」

「じゃあ、俺は先に帰ってるから…」

マリウスさんは手を振って、宿屋の方へ歩いて行った。



この世界にも月や星がある。
私の世界と似た感じだけど、不思議なことに、ここには月の明るい時期とそうじゃない時期がある。
月とこことの距離が変わるんじゃないかな?
よくわからないけど、今は月の明るい時期だ。



「良い風だな…」

「そ、そうですね。」



なんだろう?
本当にただの散歩?
それとも…まさか…告白とか…!?
……って、そんなわけないよね。
自惚れ過ぎな自分自身が恥ずかしかった。



お互い、何も話さずにゆっくりと町の中を歩く…
何とも微妙な雰囲気だ。
何か話した方が良いんだろうか?
でも、話すことが思い浮かばない。



「いろんなことがあったな。」

「え?」

「君と出会ってから…」

「あ…そ、そうですね。」



言われてみれば、確かにいろんなことがあった。



「あの出会いもびっくりしたぞ…
もしも、重い病気だったらどうしようって、内心心配してた。」

「そ、そうだったんですか。
あの時は本当にどうもありがとうございました。
ご迷惑をおかけしてしまいましたが、あの時、フェルナンさんに助けてもらえなかったら、私、一体どうなっていたか…」



本当にそう思う。
体も動かせない状態で、あんな森の中にひとりぼっちで…
あのまま夜を明かすだけでも、相当堪えたはずだもの。
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