替え玉の王女と天界の王子は密やかに恋をする
「迷惑だなんて思ったことはない。
……むしろ、君が来てくれて感謝している。」

「え?で、でも…」

「私は、祖母が亡くなってから、ずっとひとりだった。
町の人達とも、極力、親密にはならないように考えていた。
だけど…君は違う…
ありのままの自分でいることが出来た。」



フェルナンさんは俯き、独り言みたいに呟いた。
その内容に、私の鼓動は速さを増した。



(ありのままの自分でいられたってことは…
私には、心を開いてくれてたってこと!?)



そんなことを考えたら、顔が熱くなるばかりで、何と言葉を返せば良いのかわからなくなった。



「迷惑をかけたのは俺の方だ。
怖い想いをさせて、本当にすまないと思っている。」

フェルナンさんは、そう言葉を続けた。



「そんなことありません!
フェルナンさんは被害者なんですから、そんなこと、気にしないで下さい。
それに、ダニエルさんに襲われた時は、フェルナンさんが怪我までしてしまいましたし。」

「こんなのはかすり傷だし、怪我をしたのは私が喧嘩慣れしてないせいだ。
サキが気にするようなことじゃない。」

「わ、私…フェルナンさんには、本当に感謝してます!」



私とフェルナンさんの視線が絡み合う…
フェルナンさんの瞳には、何とも言えない哀しさと優しさが宿っているように見えた。



「サキ…」

「あ……」



不意に体を抱き寄せられたと思ったら…
柔らかな唇が、私の唇に重なった。



目を閉じる間もない、唐突なキス…



まさか、フェルナンさん…私のことが好きなの?
そんなこと、あるはずがない。
だったら、なぜ?



頭の中でそんな疑問を感じながらも、私の心と唇はとろけるような熱に酔いしれていた。
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