替え玉の王女と天界の王子は密やかに恋をする

side フェルナン

＊



「そんな馬鹿な話があるか！」

私は、高ぶった感情を抑えることが出来ず、テーブルを拳で叩きつけた。



「あんたの気持ちはわかる。
しかし、サキはもう決意している。
辛いだろうが、諦めるしかないと思う。」

マリウスの冷静な物言いが、酷く気に障った。
人の気も知らないで、勝手なことを…



元はといえば、マリウスにサキを預けたことが失敗だったのだ。
追われているのがサキだと知っていれば、私だってあんなことはしなかった。
あの時は、とにかくサキを護りたい一心で…
それが、最良の方法だと思っていたから。



「私は諦めない。
サキだって、本当はいやなんだ。
だけど、あの子は根が優しいから…
いや、もしかしたら、何か弱みを握られて、それで仕方なくあんなことをしているのかもしれない。」

「フェルナン…それは違う。
サキは、自らの意志でそうすることを選んだんだ。」

「あんたにサキのなにがわかる！」

「サキの目を見ればわかるはずだ。
あいつの目に、迷いはなかった。
サキは、自分の運命を受け入れたんだ。」

「運命だって？
そんなもの、何が運命なものか。
あの子は、リゴレットの王族の勝手に振り回されているだけだ！」

苛々していたせいか、自然と声が大きくなってしまった。
そんな私を、マリウスは冷ややかな目で見ていた。