替え玉の王女と天界の王子は密やかに恋をする
「とにかく、サキが無事でいることはわかったんだし、そろそろガザンに行かないか?」

「私は…行かない。」

「フェルナン……
ここにいても仕方がない。
却って、サキの迷惑になるだけだ。」

「私は、私のやりたいようにする。
すまないが、帰ってくれ…」

「そうか……わかった。
じゃあ、また明日な。」

マリウスはそう言うと、部屋から出て行った。



(サキ……)



私は長椅子に腰掛け、頭を抱えた。



どうすれば良い?
どうすれば、サキを救える?



知っていることを、城下町で言いふらすか…
いや、そんな突拍子もない話、誰も信じない。
私は、頭のおかしな奴だと思われるだけだろう。



ならば、城に忍び込み、サキをさらうか…?
いや、城には大勢の警護の者がいるし、私は腕には自信がない。
きっとすぐに捕まってしまうだろう。



(では、一体、どうすれば…?)



何も良い考えが浮かばない。
頭をかすめるのはサキの悲しげな泣き顔…



サキ…私が初めて好きになった女…



森で彼女を拾ってから、私の人生はすっかり変わった。
家に戻ると、迎えてくれる人がいる幸せ…
他愛ない話にも、サキは笑顔を見せてくれた。
懸命に家事や畑仕事を覚えようとする健気さ…



気が付けば、私はサキを愛していた。



だから、私は、サキと離れることにした。
なのに、その選択がこんな結果を招くとは…
悔やしくてたまらない。



キスをしても、彼女にかけられた魔法は解けなかった。
そんな子供みたいなことを本気で考えていたわけではないが、彼女の顔を見た時に、無意識に私はキスをしていた。
それが、まるで私とサキの絆とでもなるかのように思っていたのかもしれない。
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