替え玉の王女と天界の王子は密やかに恋をする




私は、宿屋に荷物を置くと、ヴァリアンの酒場に向かった。
酒を飲むためではない。
王子の話を訊きたかったからだ。



私は、酒場の中央の大きなテーブルに腰掛けた。
そして、傍にいた酔客に話しかけた。



「やぁ…良かったら、一緒に飲まないか?」

「あんた、よそ者なのか?」

「あぁ、南の方から来た。
あてのない旅をしている。」

「あてのない旅とは、羨ましいことだな。」



他愛ない話をしばらく続けてから、一番訊きたかった王子のことを訊ねてみた。



「そういえば、近々、この国の王子がご結婚されるらしいな。」

「良く知ってるな。
大巫女アーリアの神託が下ったんだ。
全く、可哀想にな。」

「可哀想とはどういうことなんだ?」

「それが、ルーサー様にもマーカス様にも、心に決めた人がいるんだ。」



その話を聞いて、私はガザン王のことを思い出した。
確か、ガザン王は、愛を貫き国を滅ぼしたはずだ。
まさか、ヴァリアンの王子はそんなことはしないだろうが…



「そうなのか…それでご結婚なさるのはどっちの王子なんだ?」

「さぁな…まだ公表はされてないが、多分、長兄のルーサー様じゃないのか?」

「ルーサー様とはどんな方だ?」

「どんなって…見た目はふたりとも男前だ。
頭も良いらしい。
だが、性格までは良くわからないな。」



それは、当然のことかもしれない。
王族の者が庶民と関わるような機会は滅多にないのだから。
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