替え玉の王女と天界の王子は密やかに恋をする
side フェルナン
(……ありがとう…サキ……)



心の中が、とても穏やかだった。
まるで、凪いだ海のようだ。



風はやみ、時間も止まり…
すべてが終わったような気がした。



『フェルナンさん……
愛しています。これからもずっと……』



サキの囁き声が、今も耳に残っている。



私は、その言葉を支えに、これからも生きていけるだろう。
すっかり色褪せてしまったこの世界で、ただの抜け殻になっていても。



「フェルナン…そろそろ晩餐会の始まる時間だぞ。」

「申し訳ありませんが、私はここにいます。」

「どうかしたのか?」

「どうやら気疲れしたようです。
食欲も全くありません。」

「それはいかんな。医者でも呼ぶか?」

「いえ、大丈夫です。少し横になっていたら、じきに治ります。」



ルーサーとマーカスが出かけてから、私は旅支度を整えた。
持って行くのは、ごくわずかな身の回りのものだけだ。
もう私が貴族でいる必要もなくなった。



世話になったルーサーとマーカスに、短い書置きを残した。
今までの感謝と、どちらになるかはわからないが、シャルア王女と幸せに…と。



(さようなら、サキ……
私も君を愛している…この先もずっと……)



薄暗がりの中…私は城を抜け出し、リゴレットの町を後にした。
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