替え玉の王女と天界の王子は密やかに恋をする




「行ってらっしゃい。」

私がそう言うと、どこかはにかんだような顔をしながら、フェルナンさんは家を出て行った。



ここに来て十日程が経った。
体の痛みはすっかり消えて、私は少しずつ家のことを手伝うようになっていた。
とはいえ、まだなかなかうまくは出来ないのだけど。



だって、ここには掃除機も洗濯機もない上に、洗剤だってないんだから。
果物の皮みたいなものや植物の灰汁を洗剤代わりに使うんだって、フェルナンさんに教えてもらった。
洗濯ものを棒で叩いたり、足で踏んだり…けっこう疲れる。
機械がないと、家事ってこんなにも大変なことだったんだね。



フェルナンさんとはうまくいっている…と、思う。
そりゃあまぁ、特別な仲ではないけれど、友達くらいには思ってもらえてるんじゃないかと思う。
フェルナンさんへの信頼は強まったけど、でも、やっぱりまだすべてを話す勇気はない。
だから、相変わらず、記憶喪失のせいにして誤魔化している。
まぁ、話したところで、信じてもらえないかもしれないけど…
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