替え玉の王女と天界の王子は密やかに恋をする




「おいおい、そう慌てて食べるなよ。
喉に詰まっても知らないぞ。」

「は、はい!」



男性の名はダニエルさんというらしかった。
パンや缶詰を、ものすごい勢いで食べている。
相当、長い間、まともなものを食べてなかったようだ。



「タリムさんの家には行かなかったのか?」

「タリムさんの家?
この森に住んでる人がいるんですか?
俺は、森の中を隅々まで探したはずですが、家なんてありませんでしたよ。」

「そうか…それじゃあ、タリムさんの家にも結界みたいなものがかけられてるのかもしれないな。
この森には食べるものはものはないのか?」

「あるにはあるんですが、小さな酸っぱい木の実だけです。
しかも、その木の実は消化が悪く、たくさん食べると腹を壊すんです。」



そんな環境の中、この人は頑張って生き延びていたんだね。
そう思ったら、先日の出来事も許せるような気がした。
根は悪い人じゃなさそうで、私達にもこっちが恐縮するくらい謝ってくれたし…



「それは大変だったな。
だが、もう心配することはない。
すぐに出られるから…」

「お言葉ですが、ここはそんなに簡単に出られる森ではないのです。
きっとここには、魔法使いの呪いがかけられてるのだと思います。」

私達は何の苦労もなく出入りできたから、ピンと来ないけど…
きっと、ダニエルさんは、必死で出口を探して彷徨っていたのだろう。
いくら剣を守るためとはいえ、えらく罪な呪いだよね。
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