命の手紙


手紙はところどころ濡れていた。この手紙をどんな気持ちで書いたのか、痛いほど伝わってくる。

「あの子に訊いたの。『どうして三年なんて嘘をついたの?』って。そしたらあの子はこう答えたの。『光と一日でも一緒に生きていたいから』って言ったわ」

やっとわかった。映画を観ていて泣いていた理由も、ちょっとしたことで不安になったりいらだったのも、全部、全部ーーー。

「好きだった!俺も…あいつのことが…好きだった!」

灰原が死んで、初めて泣いた。大声で子どもみたいに泣いた。

灰原の言葉で不安になったりするのは、あいつに何も敵わないからだ。俺は勉強ができるだけで、夢も何も持っていないから。

「……いっぱい……したいことがあった…。行きたいところだって、いっぱい……」

あふれ出した感情や涙は止まらない。

いつか灰原と話した言葉を思い出す。

『世界には、どんなすてきな物語があるのかなぁ?」

『はあ?知らねぇよ』

『いつか、世界中の本屋や図書館に行くのが夢なんだ』

そう言って灰原が笑った時、俺は思った。絶対に連れて行ってやるって……。

「全部、全部、俺の台詞なんだよ!『ありがとう』も『愛してる』も。……俺を置いてどこ行ったんだよ!?」

泣きじゃくる俺を、灰原のお母さんが抱きしめる。そして、震える声で言った。

「……ありがとう。娘を愛してくれて」
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