命の手紙
「どうって……綺麗事だな」

俺は嘘をついた。

貸してもらった本の内容は、希望も夢も失った主人公が旅をして自分を見つける話だ。主人公が自分に見えて、最後には泣いてしまったのに冷たくそう言ってしまった。

「そっかあ……」

女は笑って、「まあ、価値観はみんな違うからね」と言う。

その笑顔に少しだけ、胸が痛くなる。

あの日から一週間がたっていた。

「そういえば、君の名前まだ聞いてなかったね。何て言うの?」

「……青木光(あおきひかる)」

「光はどんな本がオススメ?教えてよ」

「……いきなり呼び捨てで呼ぶか?」

「ダメなの?」

「いや……まあ、いいけど」
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