半人前霊能者シリーズ ② 紡がれる力
(霊体なのに、浄霊することができてしまうなんてスゴイな。しかもキレイなものだった)
博仁くんの言葉に、自分が霊体だったことを思い出す。そういえば違和感なく、いつも通りに浄霊してしまった。
「えっと……自分の立場を忘れて、何だかできちゃったみたいで……」
(ますます君の力を借りたくなった。とりあえず体に戻ろうか)
――俺の力を借りる?
「博仁くん?」
(戻ったら話すよ、僕が何をしたいのか。それと一緒に力も見せてあげる。君の体を貸してくれ)
空を飛びながら前を見据えて、ちょっとだけ硬い口調で言ってくれたけど、不安が拭えないのは正直な話だった。
だって――
(よし。スムーズに戻れたね。疲れていないかい?)
体に戻って頭の中に話しかけられる言葉に、素直に答えようと口を開く。
「ちょっとだけ疲れているかも……。何だか体がダルい」
(そうか。じゃあ、チラッと僕の力を見せてあげる。右手を目の前に差し出してみて)
「こう?」
言われた通りにしてみると体の中にいる博仁くんが、何か呪文のようなものを唱え始めた。
「わぁっ!?」
差し出しているてのひらから緑色した炎のようなものが突如現れ、メラメラと燃えはじめたではないか!
(これは、地獄から取り寄せた業火だよ。この炎を使って、僕は除霊をしているんだ。今はこんな色をしているけど、霊にぶつけたら全身を包み込んでキレイな緋色の炎になる。どんなものでも焼き尽くして、滅してくれる最強の炎だ)
微笑みながら炎を操る博仁くんをみて、何だか背筋がゾクゾクしてきた。地獄からそんなものを持ち出して、大丈夫なワケがない――。
俺は慌てて、手から出ている炎を払い落とした。
(どうしたんだい? 怖くなった?)
落とした炎は音もなく消えてしまったけど、心臓がずっとバクバクしっぱなしだった。
「だって地獄から取り寄せたモノなんでしょ……。怖くないハズがないよ。危険すぎる」
最初に博仁くんと出逢った木に寄りかかり、胸元を押さえる。冷たい風が、体を冷やすように吹き抜けていった。
(力のある優斗は、危機に直面したことがないだろうね。死にそうなくらいの恐怖を味わうくらいの)
ヤバイなぁというレベルならたくさん経験したけど、死にそうなくらいの恐怖までは感じたことはない。そういうのを肌で感じ取り、近寄らなかったからだ。
(僕は君のような力はなかったけど独学で勉強して、そこら辺にいる霊を除霊していたんだ)
熱意のこもった言葉に、凄いなと素直に思った。俺は母さんの指導があるから迷いはすれど、きちんと対処することができていた。
だけど博仁くんは、どうしていたんだろうか――。
(だけどある日、厄介なのに遭遇してね。魂を捕られそうになったんだ。もうダメだと思ったとき、目の前に例の炎を操っている人が現れた)
「それって……」
だって地獄の炎を操っているといえば、あまりタチがよくない人じゃないのかな。
(地獄の万人だよ。僕に炎の使い方を教えてくれて、見事除霊に成功したんだ。お蔭で、生き長らえることができた。これを使ってからは、もう無駄な心配をすることなく除霊しまくってた。無敵の炎だからね)
「無敵の炎だったのに、どうしてここで縛られていたの?」
そうだよ、博仁くんは死んでここに縛られていた。言わば、呪縛霊になっていたんだから。
(炎を出そうとした瞬間、魂を引きずり出された。そのせいで死んだんだ。ちなみに君は、堕ちた霊と遭遇したことがあるか?)
その言葉にふるふると首を横に振った。母さんからも堕ちた霊の話を聞いたことはない。
(生きてる人間同様に、霊も精神を病むんだよ。誰にも気づいてもらえず無視され続け自分の存在を延々と否定されていると、やがて堕ちた霊になるんだ。朽ちていると表現していいかも。少数だけどね、たまに遭遇する程度かな)
言われてみたら、そういう霊がいてもおかしくない――自分の存在は俺や博仁くんのように力のある人間しか見えなくて、苦痛や痛みをどんなに訴えても、他の人間にはスルーされてしまうんだから。
(堕ちた霊には言葉が通じない。人の形をしていないし、感じ取れる感情は虚ろ。欲するものは、穢れていない魂なんだ)
「魂を食べるの!?」
思わず声をあげると、ああと言って寂しげに微笑む。
(アイツらは堕ちていない魂を主食にして、どんどん大きくなっていく。自分たちの虚無をぶつけて相手を腐らせて、食べていくんだよ。特に僕のような能力者の魂は、極上のご馳走らしい)
「博仁くんを縛りつけたのって、もしかして――」
(ああ、巨大な大きさになった堕ちた霊。体をとられたけど魂になっても必死に抵抗してやったら、ああやって縛り付けられた。いつか僕も同じように、堕ちるだろうと考えたのかもしれないね)
何も知らないということは、無能なことよりも辛い――俺は何も知らず、目につく霊の浄霊ばかりして楽をしていたに過ぎないんだ。
(優斗、そんな風に悲観するのは止めてくれ。君はヤツラのエサである魂を、キレイに浄化してくれたじゃないか。僕にはそれができなかった……。転生できる魂を焼き尽くすしか術を知らなくて、可哀想なことをしたと思ってる)
やっぱりあの炎で焼かれたら地獄行きで、来世には繋がらないんだ。
(君さえよければなんだけど、手を組まないか?)
「手を組む?」
(そう。優斗は浮遊霊担当で浄霊をして、僕は堕ちた魂を除霊する。そうして力を合わせて、この世をキレイにしていきたいと考えてるんだ)
――ふたりで力を合わせる――
博仁くんの告げた言葉が、胸の中にじんわりと広がっていった。
今までひとりきりでこなしていった作業を、ふたりで力を合わせるなんて心強い、すごいや!
「ふたりで頑張れば、無敵そのものだよ。こちらこそ足を引っ張っちゃうかもしれないけど、ヨロシクお願いする!」
(優斗に足りないのは経験だけだ。大丈夫。フォローしてあげるから)
こうして博仁くんと一緒に力を合わせて、前に進めると思っていた。彼の本性を知るまでは――。
博仁くんの言葉に、自分が霊体だったことを思い出す。そういえば違和感なく、いつも通りに浄霊してしまった。
「えっと……自分の立場を忘れて、何だかできちゃったみたいで……」
(ますます君の力を借りたくなった。とりあえず体に戻ろうか)
――俺の力を借りる?
「博仁くん?」
(戻ったら話すよ、僕が何をしたいのか。それと一緒に力も見せてあげる。君の体を貸してくれ)
空を飛びながら前を見据えて、ちょっとだけ硬い口調で言ってくれたけど、不安が拭えないのは正直な話だった。
だって――
(よし。スムーズに戻れたね。疲れていないかい?)
体に戻って頭の中に話しかけられる言葉に、素直に答えようと口を開く。
「ちょっとだけ疲れているかも……。何だか体がダルい」
(そうか。じゃあ、チラッと僕の力を見せてあげる。右手を目の前に差し出してみて)
「こう?」
言われた通りにしてみると体の中にいる博仁くんが、何か呪文のようなものを唱え始めた。
「わぁっ!?」
差し出しているてのひらから緑色した炎のようなものが突如現れ、メラメラと燃えはじめたではないか!
(これは、地獄から取り寄せた業火だよ。この炎を使って、僕は除霊をしているんだ。今はこんな色をしているけど、霊にぶつけたら全身を包み込んでキレイな緋色の炎になる。どんなものでも焼き尽くして、滅してくれる最強の炎だ)
微笑みながら炎を操る博仁くんをみて、何だか背筋がゾクゾクしてきた。地獄からそんなものを持ち出して、大丈夫なワケがない――。
俺は慌てて、手から出ている炎を払い落とした。
(どうしたんだい? 怖くなった?)
落とした炎は音もなく消えてしまったけど、心臓がずっとバクバクしっぱなしだった。
「だって地獄から取り寄せたモノなんでしょ……。怖くないハズがないよ。危険すぎる」
最初に博仁くんと出逢った木に寄りかかり、胸元を押さえる。冷たい風が、体を冷やすように吹き抜けていった。
(力のある優斗は、危機に直面したことがないだろうね。死にそうなくらいの恐怖を味わうくらいの)
ヤバイなぁというレベルならたくさん経験したけど、死にそうなくらいの恐怖までは感じたことはない。そういうのを肌で感じ取り、近寄らなかったからだ。
(僕は君のような力はなかったけど独学で勉強して、そこら辺にいる霊を除霊していたんだ)
熱意のこもった言葉に、凄いなと素直に思った。俺は母さんの指導があるから迷いはすれど、きちんと対処することができていた。
だけど博仁くんは、どうしていたんだろうか――。
(だけどある日、厄介なのに遭遇してね。魂を捕られそうになったんだ。もうダメだと思ったとき、目の前に例の炎を操っている人が現れた)
「それって……」
だって地獄の炎を操っているといえば、あまりタチがよくない人じゃないのかな。
(地獄の万人だよ。僕に炎の使い方を教えてくれて、見事除霊に成功したんだ。お蔭で、生き長らえることができた。これを使ってからは、もう無駄な心配をすることなく除霊しまくってた。無敵の炎だからね)
「無敵の炎だったのに、どうしてここで縛られていたの?」
そうだよ、博仁くんは死んでここに縛られていた。言わば、呪縛霊になっていたんだから。
(炎を出そうとした瞬間、魂を引きずり出された。そのせいで死んだんだ。ちなみに君は、堕ちた霊と遭遇したことがあるか?)
その言葉にふるふると首を横に振った。母さんからも堕ちた霊の話を聞いたことはない。
(生きてる人間同様に、霊も精神を病むんだよ。誰にも気づいてもらえず無視され続け自分の存在を延々と否定されていると、やがて堕ちた霊になるんだ。朽ちていると表現していいかも。少数だけどね、たまに遭遇する程度かな)
言われてみたら、そういう霊がいてもおかしくない――自分の存在は俺や博仁くんのように力のある人間しか見えなくて、苦痛や痛みをどんなに訴えても、他の人間にはスルーされてしまうんだから。
(堕ちた霊には言葉が通じない。人の形をしていないし、感じ取れる感情は虚ろ。欲するものは、穢れていない魂なんだ)
「魂を食べるの!?」
思わず声をあげると、ああと言って寂しげに微笑む。
(アイツらは堕ちていない魂を主食にして、どんどん大きくなっていく。自分たちの虚無をぶつけて相手を腐らせて、食べていくんだよ。特に僕のような能力者の魂は、極上のご馳走らしい)
「博仁くんを縛りつけたのって、もしかして――」
(ああ、巨大な大きさになった堕ちた霊。体をとられたけど魂になっても必死に抵抗してやったら、ああやって縛り付けられた。いつか僕も同じように、堕ちるだろうと考えたのかもしれないね)
何も知らないということは、無能なことよりも辛い――俺は何も知らず、目につく霊の浄霊ばかりして楽をしていたに過ぎないんだ。
(優斗、そんな風に悲観するのは止めてくれ。君はヤツラのエサである魂を、キレイに浄化してくれたじゃないか。僕にはそれができなかった……。転生できる魂を焼き尽くすしか術を知らなくて、可哀想なことをしたと思ってる)
やっぱりあの炎で焼かれたら地獄行きで、来世には繋がらないんだ。
(君さえよければなんだけど、手を組まないか?)
「手を組む?」
(そう。優斗は浮遊霊担当で浄霊をして、僕は堕ちた魂を除霊する。そうして力を合わせて、この世をキレイにしていきたいと考えてるんだ)
――ふたりで力を合わせる――
博仁くんの告げた言葉が、胸の中にじんわりと広がっていった。
今までひとりきりでこなしていった作業を、ふたりで力を合わせるなんて心強い、すごいや!
「ふたりで頑張れば、無敵そのものだよ。こちらこそ足を引っ張っちゃうかもしれないけど、ヨロシクお願いする!」
(優斗に足りないのは経験だけだ。大丈夫。フォローしてあげるから)
こうして博仁くんと一緒に力を合わせて、前に進めると思っていた。彼の本性を知るまでは――。