大天使に聖なる口づけを
結局感謝祭の最終日に行われることになり、その場にエミリアたたちを同行させようとして、フェルナンド王子はあれこれと策を講じた。

嘆願書の中には国王陛下のお気に入りの画家であるエミリアの父の名も、由緒正しき名家の出身だったアウレディオの祖父の名も、騎士の家系として名高いランドルフの家も、引っ張り出せるだけのものを引っ張り出した。

ただ一人、フィオナだけは何の肩書きも持たなかったのだが、王宮に来て早々に見かけたある大臣の体調不良の原因を、オーラの色で言い当ててしまったために、『高名な占い師』という誰にも負けない箔がついた。

自分自身の能力で道を切り開いた姿を、ランドルフが思わず、「羨ましい」と呟いてしまうほどの運の良さである。

「それで……明日の式典でエミリアにさせたいって仕事というのは、いったい何なんですか?」

王宮の中で働かせてもらうようになってからもう二日。
はぐらかされてばかりで一向に教えて貰えなかったことの答えを、満を持してアウレディオは求めた。

精神力の強さを感じさせる真っ直ぐな瞳には、これ以上ごまかされはしないという意志がこめられていた。

フェルナンド王子は、おつきのランドルフとフィオナとクラウデイオの顔を順に見渡し、ついにエミリアに視線を向けた。

「君に時間を止めてもらいたいと思って」

いつもどこかに笑みを含んでいるふうだったフェルナンドの真剣な顔に、エミリアはつい視線を奪われ、言われた内容がとんでもないものだったにもかかわらず、とっさに反応ができなかった。

「え……?」
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