大天使に聖なる口づけを
ぽかんと口を開いたエミリアを薄く笑い、フェルナンドはもう一度くり返す。
「お願いだ。私のために時間を止めてくれ」

瞳だけはずっと真剣で、いつもの華やかさとはまた違った、少し陰のある美しい表情をしていた。

「あの……本気でおっしゃってるんですか?」
首を傾げたフィオナに、しっかりと頷いている。

「もちろん本気だ」
「エミリアにそんなことができると?」
「ああ。私はそう信じている」

静かな声にこめられた厚い信頼に、エミリアは身震いするような思いだった。

(確かに……確かに感謝祭の初日、私が叫んだ瞬間、時間が止まったような気がした。私と王子以外の人たちはみんな動きを止めたと思った。だけど……)

緊張で汗ばむてのひらをぎゅっと握りしめる。
(あれってやっぱり私がやったことだったのかな……? でももう一度やれっていわれたって、どうやったらいいのかもわからない……)

寄せられる信頼の眼差しは嬉しくても、それに応えられるのかどうかが不安だった。
不安で不安で俯くことしかできない。
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