大天使に聖なる口づけを
近衛騎士に囲まれた国王陛下の肖像画を描く、という大仕事が父に舞いこみ、半年をかけて取り組んでいた間は、身の回りの世話をするエミリアも、ずいぶんと気を遣ったものだった。

なにしろ国王陛下の肖像画である。
父も芸術家の端くれ。
後世に残るものとして最高の作品を仕上げなければと、いつになくピリピリしていた時期もあった。

出来上がった絵の評判は上々。
そのおかげで、父にもようやく画家として暮らしていけるだけのお金と仕事が集まり始めた。

父の出世作――それは、失敗した下絵の中からランドルフの部分を切り取ることができたエミリアにとっても、実に実りのある仕事だった。

手に入れた絵に向かって、朝に夕に語りかける日々。
実際のランドルフとは会話したことなどなく、彼はエミリアの存在すら知らないわけだが、エミリアはいたって真剣だった。

たとえ相手が絵であっても、根も葉もない幼馴染との噂は、しっかりと訂正しておかなければならない。
「本当に本当に、無関係なんです!」
そこだけは、声を大にして何度も叫んでおく。

エミリアのこんな姿を、当のアウレディオが見たとしたら、
『くだらない……』
と冷たく言い放たれることはまちがいなかった。
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