大天使に聖なる口づけを
「やっぱり……お前、覚えてないのか?」
「何を?」

そのあまりに急激な表情の変化に、エミリアはまったく心当たりがない。

悪気なく聞き返したエミリアの顔を見ながら、小さくため息をつくと、アウレディオはくるりと背中を向けた。
そしてうしろ姿のまま、ひとり言のように呟く。

「俺もお前に作ってもらった事があるんだよ。俺だけのための時間……」
「へ?」

その返答があまりにも意外すぎて、エミリアは自分でもかなり間抜けな声が出たと思った。

アウレディオはもう一度ため息を吐くと、かなり投げやりに言い放った。
「学校を卒業する時の、騎士団の特別講習。騎士見習いを選別するための模擬試合」

エミリアは今も脳裏にくっきりと焼きついているその場面を思い出して、
「ああああっ!」
と大声で叫んだ。
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