大天使に聖なる口づけを
第4章 初恋の人と複雑な気持ち

ひさしぶりのアマンダの店。
フィオナがやって来るとすぐに、エミリアは昨夜のアウレディオのおかしな様子を報告した。

「で? 結局、その手紙の差し出し人は誰だったの?」
「さあ」

そんなことすらわからないのだからどうしようもない。
少なすぎる情報を上手く繋ぎあわせて、何らかの答えを導き出すために、エミリアはその日の仕事中、ずっと上の空だった。

(ディオの嘘つき。今日になったって、やっぱりわかんないじゃない)
エミリアは考えることを放棄して、窓の外を眺めた。

暮れ始めたリンデンの街。
マチルダとミゼットはひさしぶりの『今日のアウレディオ様』を見るために、飛ぶような勢いで帰っていった。

「私たちもそろそろ帰るわよ」
フィオナの声に立ち上がり、エミリアは何気なく窓の外に目を向け、そして棒立ちになった。

大通りの遥か向こうから、一人の人物が歩いてくる。
背中には大きな荷物袋をしょって、手に持った地図らしいものを眺めながら、時折通りかかる人を呼び止めて、どうやら道を尋ねているようだ。

(いったいどうしたんだろう?)
その人物から目を離せない自分が、エミリアはどうにも不思議だった。
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