大天使に聖なる口づけを
「しばらくはアウレディオの家に厄介になることにした。この街に、もう俺の家はないからな……」
アルフレッドの就職を機に、一家ごと違う街に移り住んだのだったか。
エミリアの家の前に建っていたアルフレッドの生家跡は、今ではもうただの空き地になっている。
「おば様とおじ様は? 元気にしてらっしゃるの?」
フィオナの問いかけに、アルフレッドがこともなげに答える。
「いや。二人とも亡くなったんだ。だから俺もこいつと同じ天涯孤独の身の上って奴さ……」
アウレディオの柔らかな髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜながら、アルフレッドはなんでもないように笑うので、エミリアにはその言葉を事実として受け止めることがなかなかできなかった。
「えっ……?」
歩みを止めてしまったエミリアに向かって、アルフレッドはわざわざひき返してきた。
パチパチと瞬くうす茶色の瞳をのぞきこんで、この上なく優しく笑う。
「ごめんなエミリア。きっと帰ってくるって約束、守れなくって悪かったって……それが親父とお袋からの伝言だ」
ポタポタポタとエミリアの頬を伝って大粒の涙が零れ落ちた。
頭の中に次々と、昔の隣人の面影が甦る。
アルフレッドの恰幅のいい母親。
人のいい父親。
みんなみんな優しかった。
母親のいなくなったエミリアを、本当に可愛がってくれた。
「私……私……!」
顔を覆ってしまったエミリアの肩を、フィオナがぎゅっと抱きしめる。
「悪い……泣かせたくなかったけど、結局黙ってることはできないもんな……」
アルフレッドが優しく頭を撫でてくれる。
その全てのぬくもりの向こうから、声が聞こえた。
「エミリア」
めったなことではちゃんと名前を呼んでくれないアウレディオが、自分を呼んでいる。
エミリアは止まらない涙を必死に手の甲で拭って、顔を上げた。
「ごめんなさいアル……一番辛いのは私なんかじゃないのに……!」
「気にするな。エミリアがこんなに会いたがってくれてたんだって、きっと親父たちだって喜んでるさ」
大好きだった優しい人は、今も変わらずやっぱり優しかった。
アルフレッドの就職を機に、一家ごと違う街に移り住んだのだったか。
エミリアの家の前に建っていたアルフレッドの生家跡は、今ではもうただの空き地になっている。
「おば様とおじ様は? 元気にしてらっしゃるの?」
フィオナの問いかけに、アルフレッドがこともなげに答える。
「いや。二人とも亡くなったんだ。だから俺もこいつと同じ天涯孤独の身の上って奴さ……」
アウレディオの柔らかな髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜながら、アルフレッドはなんでもないように笑うので、エミリアにはその言葉を事実として受け止めることがなかなかできなかった。
「えっ……?」
歩みを止めてしまったエミリアに向かって、アルフレッドはわざわざひき返してきた。
パチパチと瞬くうす茶色の瞳をのぞきこんで、この上なく優しく笑う。
「ごめんなエミリア。きっと帰ってくるって約束、守れなくって悪かったって……それが親父とお袋からの伝言だ」
ポタポタポタとエミリアの頬を伝って大粒の涙が零れ落ちた。
頭の中に次々と、昔の隣人の面影が甦る。
アルフレッドの恰幅のいい母親。
人のいい父親。
みんなみんな優しかった。
母親のいなくなったエミリアを、本当に可愛がってくれた。
「私……私……!」
顔を覆ってしまったエミリアの肩を、フィオナがぎゅっと抱きしめる。
「悪い……泣かせたくなかったけど、結局黙ってることはできないもんな……」
アルフレッドが優しく頭を撫でてくれる。
その全てのぬくもりの向こうから、声が聞こえた。
「エミリア」
めったなことではちゃんと名前を呼んでくれないアウレディオが、自分を呼んでいる。
エミリアは止まらない涙を必死に手の甲で拭って、顔を上げた。
「ごめんなさいアル……一番辛いのは私なんかじゃないのに……!」
「気にするな。エミリアがこんなに会いたがってくれてたんだって、きっと親父たちだって喜んでるさ」
大好きだった優しい人は、今も変わらずやっぱり優しかった。