大天使に聖なる口づけを

昔の友人と食事をしてからアウレディオの家に行くというアルフレッドと、途中で違う道に入るフィオナとわかれ、エミリアはアウレディオと二人で、家までの坂道を歩いた。

「ディオ……アルが帰ってくるって、本当は知ってたんでしょ……昨日の手紙、ひょっとしてアルからだったの?」
「ああ」

あっさりと答えるアウレディオを責めるつもりは、エミリアにはなかった。
恨み言を言ってみても、きっとアウレディオは眉一つ動かさない。

「いきなり再会したほうが盛り上がるだろう? だから敢えて黙ってた。でもまさか地図を片手に、仕事場まで捜しにくるとは思わなかったけどな……」

エミリアは苦笑した。
確かに顔もまだはっきりとは見えない距離の時から、自分は窓に釘づけになった。
昔からどうしようもなく、アルフレッドに惹かれていることは確かだ。
しかしアルフレッドに対する思いを、恋だと簡単に結論づけてしまって本当にいいのだろうか。

エミリアの沈黙をどんなふうに解釈したのか。
アウレディオは、
「結局そうなんだよ」
とため息混じりに呟く。

「どんなに憧れの人が増えたって、お前が好きなのは、結局子供の頃からアルフレッドなんだよ。今この時に、タイミングよくこの街に帰ってきたのが、何よりの証拠だろ?」
「それってもしかして……?」

目を見開くエミリアに、アウレディオは意味深に頷く。

(アルが私たちが捜してるミカエルだってこと……?)

軽々しく口に出してはいけないような気がした。
取り返しのつかないことになりそうな気がする。

エミリアを見つめるアウレディオの瞳は、とても穏やかで静けさに満ちている。
しかし、なんだかもっと違う色を帯びているようにも思えてならなかった。

直感のようなその思いが、決してまちがいではなかったとエミリアが知るのは、まだこの時ではなかった。
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