大天使に聖なる口づけを
第5章 厳しい宿命と本当の気持ち

ほとんど眠れないままの夜が明け、エミリアは新しい朝を迎えた。

母の仕事を手伝うと宣言してから、もうすぐ十日ほどになる。
早く仕事を完了させて、母と一緒に暮らせるようにするぞと、今までのようには無邪気にこぶしを突き上げられない自分を、エミリアは憂鬱に感じていた。

見つけたその時が、ミカエルである誰かとの別れの時になるということを知り、どうしても意欲的になれない。
自分の好きな人と会えなくなることが、最初から決定しているのだから、こんなにやる気をそがれる仕事はない。

(板ばさみってこういうことを言うんだろうなあ……)

母が準備してくれた美味しい朝食を口に運びながら、エミリアはしみじみとそう思った。
涙が枯れるほどに泣き、頭が痛くなるほどに一晩散々悩んだせいで、かえって今朝は吹っ切れたような気分だった。

(いくら悩んだってなるようにしかならないわ……まだアルがミカエルだって決まったわけじゃないんだし……ましてや、私とアルがキスなんてするわけないんだから!)

落ちこんだあとほど前向きになれるのが、エミリアの良いところである。
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