大天使に聖なる口づけを
「面白そうね。私も見学しようかしら?」
言うが早いか、フィオナは膝の上に広げていた今日のぶんの仕事を、すでに片づけ始めている。

「フ、フィオナ? 最近まとめてお休みしちゃったし……いきなり今日休むっていうのはさすがにアマンダさんだって怒ると思うんだけど……」

不安げに取り成そうとしたエミリアは、すぐうしろで響いた声に、飛び上がって驚いた。

「構わないよ。なんなら今日は店を閉めて、あたしもその試験とやらを見に行くから」

いつの間に背後に立っていたのか、アマンダ婦人はすかさず店舗の入り口の扉に『本日店休日』の札を下げに動きだす。

「リンデンの街の貴公子が騎士団の試験を受けるなんて聞いたら、今日はもう仕事になんてならないね。そこの男前さん……極秘情報をありがとう」

女将とがっちりと握手を交わしたアルフレッドは、いかにも愉快そうだ。
「お役に立てて光栄です」

「さあ、だったら早く出発するよ。うるさいのがやってくる前に早く!」
アマンダ婦人にせき立てられて、エミリアとフィオナとアルフレッドは店を出た。
試合が行われるという城へ向かう。

「マチルダとミゼットに連絡しなくてよかったのかな?」
エミリアはふり返らずにはいられなかったが、アマンダ婦人は顔の前で大きく手を振った。

「いいんだよ。あの娘たちを連れきちまったら、きゃあきゃあ悲鳴を上げて、かえってアウレディオの邪魔になっちまうだろ?」

「確かに」
淡々と返すフィオナの言葉に、エミリアは心の中だけで同意した。
それでも――。

(ごめんねマチルダ。ミゼット!)
やっぱり二人には申し訳なく思わずにはいられなかった。

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