大天使に聖なる口づけを
気づくはずもないと思った遥かな距離。
しかしアウレディオは迷うこともなく真っ直ぐにエミリアをふり返った。

よく晴れた日の空の色にも似た蒼い瞳が、確かにエミリアの姿を捉える。

「ディオ!」
喜び勇んで手を上げたエミリアから、しかし次の瞬間、アウレディオは視線を逸らした。
そのまま二、三歩前進し、人ごみに呑まれて見えなくなっていく。

エミリアは意味のなくなった手を下ろし、反対の手のてのひらと一緒にしてぎゅっと握りあわせた。
歯を食いしばって必死に我慢していないと、涙が溢れてきそうだった。

「どうしたのエミリア? どこにアウレディオがいた?」
フィオナが問いかけてきたが、エミリアは歪んだ表情を見られることが嫌で深く俯き、

「ううん。見まちがいだったみたい……」
力なく答えるのがせいいっぱいだった。

「じゃあ、もう少し近くに行く?」
「うん」
歩き出すフィオナとアマンダ婦人のうしろについて、痛む胸を気にしないようにしながら歩いていくのがやっとだった。
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