大天使に聖なる口づけを
カラーン、カラーン、カラーン。

夕刻を告げる鐘の音が、夕焼けに染まり始めたリンデンの空に響く。
鐘楼があるのは街の中央に位置する大聖堂。
そのすぐ裏手の大通りに、エミリアが勤める仕立て屋――アマンダの店はあった。

「おや、もうこんな時間かい? こうしちゃいられない。腹をすかせた旦那が帰ってきちまうよ……マチルダ、エミリア、フィオナ、ミゼット。あんたたちも切りのいいところでやめて、今日はもうお帰り」

恰幅のいい店主――アマンダは、見た目以上に太っ腹な気前のいい女性だ。
城の衛兵として働く主人をしっかりと支えながら、この小さな仕立て屋を切り盛りしている。

色とりどりの服地と最新型のドレスを着せたトルソーが並ぶ店舗。
その奥に四人の少女たたちが仕事に励む作業部屋はあった。

椅子に座り黙々と針を動かしていたエミリアは、アマンダの呼びかけに、すぐに今やっている仕事を仕上げにかかった。

「ふーっ、今日も肩が凝ったぁ」
大きく伸びをしながら、真っ先に椅子から立ち上がるのは、いつも決まって一番年長のマチルダ。
パッと目を引く赤茶色の髪に華やかな目鼻立ちのマチルダは、手際よくこなす仕事ぶり同様、性格のほうもきっぱりはっきりしている。

「ミゼット、まだ? 早くしないと私だけ先に帰っちゃうわよ?」
布地の上に覆い被さるようにして襞飾りをこしらえていた、ぽっちゃりとした色白のミゼットは、慌てて顔を跳ね上げた。

「やだ……もうちょっとだから、待ってよ……」
同じ方角に家がある二人は、いつも連れ立って店から帰っていく。
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