大天使に聖なる口づけを

最後の決勝戦が始まるまで、とうとうアウレディオはエミリアたちの前に姿を現すことはなかった。

「これで心おきなくアルフレッドの応援ができるじゃない。つまりアウレディオは敵」
フィオナのように割り切ることは、エミリアにはできそうにもなかった。

大きな歓声に包まれて、軽鎧に身を包んだ二人が広場に現れる。
兜に赤い羽根飾りをつけているほうがアウレディオ。
緑のほうがアルフレッド。

わざわざ教えてもらわなくても、エミリアにはすぐわかる。
昔からエミリアにとってはアウレディオはアウレディオ。
アウレディオじゃないほうが相手の誰かだった。

谷よりも深いその差に、我ながら愕然とする。
「がんばれ……二人とも……」

アルフレッドに対する罪悪感からか、とても届きそうにはない声で、公平な応援を心がける。
まちがってもこんなところで、どちらかに対して『天使の時間泥棒』を使うわけにはいかなかった。

二人が持つ幅広の剣が激しくぶつかりあう音が響き、人垣の向こうで試合が始まったことをエミリアは知る。
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