大天使に聖なる口づけを

「やっぱり結局こうなるのか……」

すぐ背後からアウレディオの声が聞こえる。
息がかかりそうなほどの距離。
肩からすっぽりと抱きすくめられている体も、背中に感じる確かな温もりも、眩暈を起こしそうなくらいドキドキが止まらないのに、まるで何か不満でもあるかようなアウレディオの言い方はなんなのだろう。

甘い気持ちもどこへやら、ムッと体ごとふり返ったエミリアに、アウレディオは
「いてててて」
と小さな悲鳴を上げた。

向きあう距離がこれまでより近いことには、あいかわらず胸が鳴るのだが、しきりに腕をさするアウレディオにはついついいつもの調子で、
「どうしたの?」
とそっけなく聞いてしまう。

それで甘い雰囲気はもうお終い。
幼馴染同士なんて、結局こんなものなんだと、エミリアは少し残念に思った。

アウレディオはシャツの袖をめくって、右腕を見せてくれた。
手首から肘にかけて、かなり大きな傷ができている。

「何? 痛そうだね」
思わず顔をしかめたエミリアに、アウレディオはまた大きなため息を吐いた。

「突然倒れた誰かさんを支えるために、腕から滑りこんだんだよ」

(あ、そう、私のせいですね……)
エミリアは申し訳なさに首を竦めた。
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