大天使に聖なる口づけを
着替え終わってエミリアをふり返ったアウレディオは、彼女がまたポロポロと泣き出している姿を見て、腕を伸ばした。

「まったく……しょうがないな」
口では悪態をつきながらも、胸の中にしっかりと抱きしめる。

「泣かなくていいよ。お前の前からいなくなるのは俺一人だけだ。これからはずっとリリーナがいてくれる。フィオナだっているだろ? せっかく知りあいになったんだから、時々はお城に行って、ランドルフやフェルナンド王子にも会えばいい。きっと喜ぶぞ……」

(嫌だ……)
意思表示のために、エミリアはアウレディオの腕の中で首を横に振る。
何度も何度も――。

「楽しいことがいっぱいで、俺のことなんてきっとすぐに忘れるって……」

言葉に反してエミリアを抱きしめるアウレディオの腕は、痛いくらいに強い。
その事実が、張り裂けそうに痛いエミリアの胸を、ますます痛くする。

(嫌だ……嫌だ……)

「それにお前はきっともう一度恋をする。今はあんなふうに茶化してるけど、本当はずっとお前を好きだったアルフレッドに、きっともう一度恋をするよ」

エミリアは気が遠くなるくらいに首を振った。
(そんなの……嫌!)

誰と親しくなっても、誰に想いを寄せられても、アウレディオがいなくなってしまったあとの寂しさを埋められる気がしない。
アウレディオの代わりは誰にもできない。

アウレディオはいつでも、誰よりもエミリアのことをわかってくれる。
エミリアの自分でもよくわからないような気持ちにも、ちゃんと答えをくれる。
――でも一番大事なことだけは、どうしてもわかってくれない。

(私が好きなのはディオなのに! 一番そばにいて欲しいのはディオだけなのに!)

アウレディオがそれだけは決して「うん」と言わないことが、エミリアにもわかっていて、だからこそ尚一層、涙が止まらなかった。

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