大天使に聖なる口づけを

家が隣同士なのだから帰ってから渡せばいいのに、アウレディオは毎日、カラになった弁当箱をわざわざエミリアの仕事場近くの大聖堂の前まで持ってくる。

いつも決まった時間にアウレディオが佇むその場所は、今では夕方のリンデンの街の、ちょっとした名所になりつつあった。

大聖堂の石段の前で、何をするでもなく広場や街の様子を眺めているアウレディオは、確かにエミリアの目から見ても絵になる。

スラリと長い手足。
ごく普通のシャツとズボンを着ているのに、とても仕立てがよく見えてしまう姿勢のよさ。
どことなく漂う気品。
憂いを帯びた横顔。

エミリアの幼馴染でお隣さんの少年は、全てを精密に計算されたかのように整った容姿をしている上に、とても人の目を惹く独特の雰囲気があった。

心持ち壁にもたれかかるようにして立つアウレディオの姿を、夕焼けの中で一目見た女の子は、決まってもう一度見たいと願い、足しげく毎日その時間、その場所に足を運ぶ。

噂が噂を呼んで、夕方の大聖堂前に集まる女の子たちの数は、いまや日曜日の礼拝にも負けない数に膨らみつつあった。

そんなアウレディオの待ちあわせ相手として、エミリアはいつも、突き刺さるような非難の視線を一身に浴びていた。

しかし、他の人に対するのと同じように、エミリアに対しても、アウレディオの態度はあまりにも素っ気ない。
その上、思い余ってエミリアに危害を加えようとした女の子を、アウレディオが情け容赦なく、街の役人に突きだしたこともあった。
その対応に恐れをなしたのか、今では誰もアウレディオの前で、エミリアに文句は言わなくなった。
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