大天使に聖なる口づけを
「な……何?……どうしたの?」
やっとの思いで絞りだした声を無視して、アウレディオはエミリアにグググッと顔を近づけた。

「きゃああああ!」
案の定、背後で沸き起こる悲鳴の山などには、まるでおかまいなし。

「……リリーナが帰って来たんだろう?」
何年ぶりかで間近に見たアウレディオの端正な顔に目を奪われていて、エミリアははじめ、何のことを言われたのかよくわからなかった。

「え?」
しかししばらくして、ようやく言葉の意味を理解すると、ついさっきまでドキドキと脈打っていた心臓が、あっという間に静まっていく。

「よく……わかったね……」
エミリアの声が微妙に低くなったことには、気がついているのかいないのか。
アウレディオは少し目を細めて、はにかむような表情を見せる。

「当たり前だ。エミリアのオムレツと、リリーナのオムレツじゃ、全然違う」
(ふーん、そうですか……)
高揚するアウレディオとは裏腹に、どんどん萎えていくエミリアの気持ち。

「きゃああああ!」
垣間見せた思いがけない表情のせいで、背後ではまたも悲鳴の嵐が沸き起こった。
< 21 / 174 >

この作品をシェア

pagetop