大天使に聖なる口づけを

フィオナと三人、家までの道を歩いているうちは、アウレディオは少し前を歩きながらむっつりと黙りこんでいるばかりだった。

しかし長い坂道にさしかかってフィオナと道がわかれると、ポツリポツリとエミリアに質問を始めた。

エミリアもごく簡単に、自分にわかるだけのことを答える。

今朝起きたら、母が家に帰ってきていたこと。
昨日までそんな話はなかったのに、父はまったく驚いていなかったこと。
仕事に行く時間になってしまって、結局詳しいことは何もわからないまま出かけてきたこと。

「だから、家に帰ったらお母さんを質問責めにするんだから……!」
「……そうか」
エミリアの決意は耳に入っているのかいないのか。
少し前を行くアウレディオの歩調は、今にも踊りだしてしまいそうに軽い。

(そうだね。ディオにとっては、小さな頃からの憧れの人だもんね……)

赤ん坊の頃に両親を亡くし、エミリアの家の隣に建つ大きな石造りの家に祖父と二人で暮らしていたアウレディオは、五歳の時にその祖父も亡くした。

エミリアの持つ最も古い記憶とは、そのアウレディオの祖父の葬儀の光景である。
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