大天使に聖なる口づけを

暖かな光が窓から射しこむうららかな午後。

居間に置かれた布張りの椅子に深々と腰かけて、エミリアは湯気を立てる紅茶の芳しい香りを、胸いっぱいに吸いこむ。

紅茶はもちろん大好きなミルクティー。
横には母の手作りのお菓子も添えられており、その母ももちろん、向かいの席に座って、にこにこと微笑んでいる。

その日の午後のひと時は、エミリアがこの十年間、密かに心の中で思い描いてきた理想のティータイム――まさにそのものだった。

しかし残念なことに、その時のエミリアは、とても落ち着いて今の状況を楽しんでいられるような精神状態ではなかった。

母の思いがけない姿を目撃し、その場はともかく何も言わず、黙って家まで帰ってきたエミリアだったが、その道中、アウレディオと母との間で交わされたのは、

「元気だった?」
とか、

「俺、今庭師の仕事をしてるんだ」
とか、あまりにも普通の会話。

「お母さん! 家に帰ったら、絶対にきちんと説明してもらいます!」
とはじめは息巻いていたエミリア自身も、目にした光景のあまりの荒唐無稽さに、いったい何から聞いていいのかがわからなくなってしまった。

花柄のカップを膝に置いたたまま、少し困ったように上目遣いでエミリアの顔を見つめている母は、どうやら自分から話を切り出すつもりはないようだ。

(このままじゃ埒があかないよね……)
紅茶をいっきに飲み干して自分を奮い立たせ、エミリアはついに口を開いた。
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